予告された倒産の記録 その35

■ NSの嵐のような微風


 ようやく、サービス残業の面倒から解放されたマシタ氏は、1月中旬のAM会議に出席した。

 後に、WILLCOM NSとなる手帳型端末について、B&P部の担当者が説明していた…



 NSの担当者、B&P部のチジマ氏は、2008年12月中旬、部長のイシヤマ氏とともに、メーカーの東立から、NSの提案を受けた。


 提案といえば聞こえはいいが、東立の言い分はこうだ
 → NSの件では夏にしたキクガワ社長を交えたMtgで開発を進める合意を得た。その合意に従って我々は開発を進めてきた。すでに引くに引けないところまで来ているが、そろそろ商品化の最終決断をしてほしい。


 夏のMtgでNSの開発にキクガワ社長が合意した、WILLCOMから発売決定の前提で、というストーリー。
 しかし当の本人キクガワ氏に、「発売前提」まで合意した認識はなかった
 端末コンセプトも、どんな代物が出来上がるのか、夏には曖昧で、発売前提の合意などできるわけない。


 東立は、端末製造のコスト削減と販売数増大を目的としたグローバル展開に取り組み始めていた。簡単にいえば、材料をボリューム・ディスカウントで仕入れ、複数の端末で材料を共有し、各国の市場で販売するという戦略。

 ドコモ向けに高機能スマートフォンを企画した。そのスマートフォンは日本だけでなく海外市場でも売る。材料を大量に仕入れた。その材料の一部を使って、ウィルコム向けの端末を企画したい。コストが安く済みます。というのが夏頃の、東立の姿勢だった。


 夏のMtgにはイシヤマ氏もチジマ氏も同席していたが、2人は東立の作り上げたストーリーを受け入れた
 なぜなら、W-SIM普及の推進者である彼らもまた、W-SIM対応端末を一種類でも多く世に出したいと思っていたためだ。


 今では死語になりつつあるが、着脱型小型通信モジュールW-SIMは、「ユビキタス」をコンセプトにしていた。
 電話ではなくあらゆるものに通信機能を。
 それはそのまま、ウィルコムの企画端末のコンセプトでもあった。


 以前、フォロワーさんのコメントの中に、ウィルコムの端末はシンプルな顧客ニーズの王道を外してキワモノばかり、というのがあったが、それはこの辺のコンセプト執着に理由があるかもしれない。NSは、さしずめ、手帳に通信機能を、といったところだろうか。


 他社向けの端末と一部の材料が同じであるため、ウィルコム向け端末の最低製造台数が従来になく少なくていいというのも、イシヤマ氏チジマ氏には良かった。
 出しても売れないウィルコム端末。
 製造台数のコミットは常に大きな課題だ。



 NSは、手帳型端末。
 なにそれ? 
 → バインダー式の手帳に挟めるようゴムの外枠がついている。外枠から端末本体をはずし、手帳に挟まず単独で使うこともできる。


 何に使うの? 
 → ネットサーフィン、ブラウジング。画面が03やiPhoneよりも大きくて見やすい。ちょっと調べものをしたいときなどに適している。  


 回線がPHS(4x)で遅いけど? 
 → 2つのブラウザを用意した。「NetFront」と「jiglets」。「jiglets」を使えば、テキストデータなど先に取り込みながらストリーミングの感じで表示できる。それに「NetFront」も、そんなにストレスはない。


 何で手帳型なの? 
→ 40代以降の男性をターゲットにした。この年代はモバイルやデジタルに対して感覚的な距離がある。たいてい手帳を持っている。だから手帳に挟んだ親身な感じのモノで、タッチパネルで簡単操作できる端末を出せば、ニーズがある。


 ブラウザ以外の機能は?  
→ PDFを読める程度の機能はあるが、基本的にブラウジングだけに特化した。東立と何度も何度も何度も議論を重ねて、そのコンセプトが一番ということになった。


 どうして? 
→ 余計なもの、無駄なものはいらない!! ということ。


 利用シーンがいまいち浮かばないんだけど? 
 → だから手帳に挟んで使う。中年オヤジは本当はケータイの操作が苦手。だからタッチパネルの手帳型端末を使う。どう使うかは、あとはお客さんが自由に見つけてくれれば。



 東立の作り上げたストーリー、そして東立とイシヤマ氏チジマ氏による妙なコンセプト固めで出てきた手帳型端末のプランは、仕入れ台数たった3000台のテストマーケティング、という鎧をまとい、2009年1月中旬のAM会議で披露された。



 AM会議でチジマ氏がNSの説明をした後、キクガワ社長は言った。
「これは、売れるのか?」


 キクガワ氏にしてみれば、いつのまにか自分がゴーサインを出したことにさせられている。東立だけならまだしも、社内の人間(イシヤマ氏チジマ氏)までもが身勝手な理由でそのストーリーに便乗し、売れそうもない端末の発売を迫ってくる。

 そこで明確に「NO!」を意志表示したり、部下を教育できないキクガワ氏も悪いが、企業のトップとして、内心で部下に軽んじられ、面倒な事態が生じる、これほどの受難もないだろう。


 チジマ氏は答えた。
今回は東立さんのご協力で、初期ロット3000台が可能となりましたので、テストマーケティングの位置づけで考えております。



 3000台。
 今まで、通信キャリアが発売したモバイル端末で、たった3000台すら売れなかった前例が一度でもあっただろうか。
 どんなクソ端末でも、価格設定でよほど馬鹿なミスをしないかぎり、3000台くらい売り切れる。



 3000台。
 テストマーケティング
 企画担当者の自信のなさと甘えを露呈しているようなものだった。
 たぶんそんなに売れませんよ…でも、何か、何かあれば、バーンと売れるかもしれないw でも売れなくても3000台だから、ねえ、いいでしょ、キクちゃーん?



 売れそうもない端末の初期ロット3000台。そんなビジネスをやる意味があるのか。キクガワ氏は眉間の皺を深めた。「やるからには、少しでも売れるようにしないといかんだろ」


 キク 「前にも言ったはずだが、ニュースや電子書籍を簡単に見られるようにしたりとか、そういうサービスと端末をセットにしないと売れんぞ。その件はどうなったんだ?」
 チジマ 「はい。その、東立さんとも相談してますが、なかなか難しいようで…検討しています」


 部下から「検討している」と言われて、どう検討しているんだ? と掘り下げないキクガワ氏。
 呆れたような表情だけはしてみせる
 もういい、というような感じで、NSの件は終わった。



 ニュースや電子書籍、という言葉がキクガワ氏の口から出たのを、マシタ氏は聞いた。
 ウィルコムで電子新聞をやっている人間はマシタ氏以外にいない。「検討している」ということだが、NSの担当者(チジマ氏)から相談された覚えはなかった。


 AM会議の後、マシタ氏はチジマ氏に尋ねた。すると、検討などちっともしていなかった

「NSはブラウジングに特化したシンプルな端末だから余計なものは入れない」とチジマ氏は言ったw
 ひでーもんだw 仮にも社長である者の意見が「余計なもの」扱いする部下w  


 チジマ氏はコンテンツサービスを作ったことがなかった。
 どうやればいいかもわからない。苦手意識がある。できる人を探すのも面倒。
 自分でやりたい見栄だけはある。だから、自分にできることだけで済まそうとした…


 シンプルなブラウジング端末、とNSのコンセプトを決めたのも、市場の可能性より、自分にできそうな範囲でおさめた。
 コンセプトを決めると、なぜかそのコンセプトに合ったユーザーがいるように思えてくるから不思議。 
 そんな自己本位の妄想の中で、NSの開発は進められていた。



 しかし本当は、できるなら社長の注文にも応えたい。なので、NSでの電子新聞サービス作りに動いてみましょうかとマシタ氏が提案すると、イシヤマ氏チジマ氏は、それまで主張していたNSのコンセプトはどこへやら、ぜひやってくれと言ったのだった…


(2010年6月17日〜27日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その34

■ クバノ人事部長の告白と悪趣味


 マタイの受難ならぬ、マシタ氏の受難は続く。


 翌日会社でテラダ氏に呼び出された。会議室に2人きり。
 テラダ氏曰く、
 1.マシタ氏が自宅で資料作成したのは会社の禁止行為であり、懲罰の対象になる。
 2.今後は残業時間を著しく減らさなければ、仕事を剥奪して「干す」か、転勤させる


 悪質な嫌がらせ行為の見本。
 今回の「サービス残業」が起きた原因を、どこまでもマシタ氏個人の問題にし、押しつけて片付けようというテラダ氏の姑息な魂胆
 これ、タチ悪いパワハラですよねえ? と、もしツイッターがあればマシタ氏はつぶやいただろう。

 近頃ますますヒステリック気味なテラダ氏の口調。この人は一度、精神病院へ行ったほうがいいのではないだろうか、ともつぶやいたかもしれない…



 自席へ戻ると、ツミオ氏が近づいてきた。
 12月分の勤務表のシステム登録が今日までのため、サービス残業分を登録するようにとのこと。
 年末の高圧的な態度と打って変わり、おずおずと申し訳なさそうに言う。
 上司の指示一つで七変化。カメレオン社員の真骨頂だw

 違法というか、おかしいのはわかっていたけど、しょせんサラリーマンだからしょうがなかったんだよ… と顔に書いてありそうなツミオ氏は言った。「悪く思わないでくれよ、残業代、つけていいからさ…」(なんのこっちゃ?)


 サラリーマンだから、しょうがない。
 ウィルコムだから、しょうがない。
 何かにつけて、そう。 



 午後に、今度は人事部長のクバノ氏に呼ばれた。会議室で2人きり。
 WILLCOMへ入社して半年ほど過ぎたがどうですか? という話から始まった。
 組織のあり方が変わっているというようなことをマシタ氏がいうと、クバノ氏はなんと「この会社には事実上の頭(トップ)が三つあってね」と言いだした。



<豆つぶ>

 単純に個人の業務量の多さで残業時間が嵩んでいる場合は、シェアすることで解決できる。他の人にやらせた方が短時間で同等以上の成果を出せる場合は、他の人へ渡す。それは問題なし。

 ただWILLCOMのように賃金(年収)と個人の業績評価を連動させている会社では注意が必要。業績連動の原則はなるべくフェアな競争環境を前提とするので、個々の労働時間を外部から著しく制限するやり方はちとマズイ。

 たとえば、Aさんの残業は10時間、Bさんは5時間だけ、と上司が差別的に制限すると、労働時間がフェアといえず、長く働ける方が成果も出せるでしょーずるいじゃないかー、となる。ただこれは「何を評価対象とするか」という評価軸との兼ね合いもあるため、制度のバランスが大切。

 とにかく残業しなれば評価されて年収UP! という評価軸なら、誰も残業なんかしないw ま、そんなのないケド。

 また、シェアしづらく、他の人にもなかなかできない類の業務で残業時間が嵩み、コスト削減(残業削減)を優先させる場合は、業務自体をカットする。このとき、その業務を本当にやらないくていいか検討の必要あるが、残業削減が自分の任務である現場リーダーはまともに検討せず近視眼的になりがち。

 ビジネスの芽と社員のモチベーションをのし潰していくウィルコム。計画性なき行き当たりばったり残業削減施策の、重大な弊害。

 コスト削減は、今のままでは明日すらないウィルコムにとって最優先急務事項だが、何につけても、今に至るまでのやり方が悪すぎるんだよなあ…

 更生会社となったことで、これまでの「負のスパイラル」をいったん断ち切ることが可能(ウィルコム経営陣)。→ 負のスパイラル、本当に断ち切ってほしいものです。


 なんと、Yahooのトップページ・バナーにウィルコムの広告が!! 空目か?? 後でもう一度確認しようとしたが、何回リロードしても出て来ない… (ちなみに学割キャンペーン延長の広告でした) 

 確認ありがとうございます。 RT@hiro0024 ほんとだ! VT: http://twitvideo.jp/01dXF RT @willcomreal なんと、Yahooのトップページ・バナーにウィルコムの広告が!! 空目か?? 

 この位置の広告費、とても高いのに… ソフトバンクのお情け? iPhone4の記念大盤振舞い、とかw

 愛が足りないw RT @hiro0024 ウィルコム愛、全開でどうぞ!!(笑)RT @twillcom 何度リロードしても出てこない。auSBMは出たw RT @hiro0024 ほんとだ! VT: http://twitvideo.jp/01dXF #willcom

 グローバル展開を前提にして、パーツを大量ディスカウントで仕入れるのはメーカーの手法ですが(ドコモのT-01AWillcom NSも同じパーツを使ってたり)、これはどうでしょうかね。当初計画にあったような気もしますが… @TadaKhaos

 あくまで個人的な妄想ですが、ハイブリの当初目的はWILLCOMの既存スマホユーザ(約20万)の流出防衛のため、相応の台数を製造見込みだったかもしれません。それが頓挫したか、歩みがのろいので製品の賞味期限が切れる!とメーカーが思って中国で出した。か? @TadaKhaos

 もう一つ。これも妄想ですが、近い将来に、WILLCOMSOFTBANKの3Gを売るため、グローバルモデルの端末を扱います。そのときに、この中国版ハイブリを逆輸入?するかもwww @TadaKhaos


 前回(2009年1月から)のあらすじ→ WILLCOMの悪夢は現実の中にあった。4月には免許剥奪リスク対策でやらざるを得ない次世代PHSの試験サービス開始を控え、順調に見せかけるため他社との共同実験作りが進められる。

 財務崩壊による強引なコスト削減、身勝手な保身根性丸出しの中間管理職に翻弄される中堅若手社員。1月下旬の「WILLCOM CORE」中身入れ替えごまかし作戦…もとい新製品発表会へ向けて、発売前からお荷物気味の「どこでもWi-Fi」のプレスリリースを準備するゴリセ氏。

 またマシタ氏はサービス残業の面倒に巻き込まれていた。突然入った急な締切の仕事を「定時の業務時間内にできないのが悪い」と上司に言われ、サービス残業を強いられた上、今度はサービス残業したこと自体を、マシタ氏の責任だと上司に咎められた。そして、人事部長に呼び出された… 

【再掲】午後に人事部長のクバノ氏に呼ばれた。会議室に2人きり。WILLCOMへ入社して半年ほど過ぎたがどうですか?という話から始まった。組織のあり方が変わっていることをマシタ氏がいうと、クバノ氏はなんと、「この会社には事実上の頭(トップ)が三つあってね」と、言いだした。


<豆つぶ終り>



 頭が三つ。
 社長のキクガワ氏、副社長のチカ氏とツチハシ氏のことだ。
 この三つの頭が組織のナワバリをきれいに三つに分けている。ずっと昔から、今の地位に就く前から、この3人がWILLCOMの実質的な権力を握ってきた


 その縦割り組織の弊害を何とかするために作られたのが、サービス開発本部だったんだけどね、とクバノ人事部長は言った。


 マシタ「でも、ツギハギじゃないですか。機能してませんよ」
 クバノ「結局そうなることは… まあ、そういう問題があることくらい、こちらもわかってますよ」


 わかってるって…。マシタ氏は不安になった。「次世代PHSも、このままじゃ立ち上がらないんじゃないですか? みんな(次推室メンバ)迷走してますよ」
 クバノ「ああ…、タケミさんのこと? それもわかってますよ。いろいろと、彼女には彼女の問題があるんですよ」

 彼女には彼女の問題…。マシタ「誰にだって個人的な問題はあると思いますが、タケミさんの件は、どう見ても組織の問題に見えますよ。それに、サービス開発本部の他のセクションも、上司の恣意的なやり方で、労務管理がバラバラじゃないですか」

 クバノ氏は、「(次推室の)隣のこと(CRM部)ですね。それもわかってます。風邪で休んでも有休を申請せず、出勤扱いになっているケースがあるとか、噂は聞いてますよ」と言った。
 マシタ氏は主に残業管理のことを言ったつもりだったが、クバノ氏は勘違いしたようだった。


 後で知ったことだが、クバノ氏は人事部長の権力を利用し、プライバシー情報の収集を行っているようだったWILLCOMは、本来障害を監視する部署で、070番号発信のログを90日間保管し、システム部でも社内ネットワークのログ(Web閲覧、メール等を含む)を保管している。という噂。

 それらのログへアクセスするには相当の必要性が求められるが、ウィルコムでは外部監視なき、あってないようなルール。人事部長の立場で勝手に理由をでっちあげ、必要だと言えばそれでまかりとおるような「俺が法律!」的な世界。



 マシタ「わかっていて、何もされないんですか?」
 すると、クバノ氏は暗い目つきでマシタ氏をねめつけた。「そりゃあいろいろと考えてますよ。ただ、今更どうしようもないことも多いんですよ。わかるでしょう?」

 わかるでしょう?…って、何が? クバノ氏との会話にどうも少し噛み合わないところがあるとマシタ氏は感じた。まるで、何かを隠していて、それを意識しながら喋っているような感じ。


 そんなことより、とクバノ氏は本題を切り出した。あなたは上司に必要な報告を怠り、その結果、サービス残業が発生したと聞きました、と。クバノ氏の声は急に高くなり、早口でつづけた。

 困りますねぇ、上司への報告は当然の義務ですよ。新入社員がまっ先に教えられることでしょう。あなたは若手じゃないんだから、何でそんな簡単なことができないんですか。ホウレンソウですよ。報告・連絡・相談。しっかりやってくれなきゃ困りますよ!

 テラダ副本部長の逃げ口上「聞いてない」を、クバノ人事部長が言葉どおりに受け止め、既成事実化しようというわけだ。サービス残業をさせたのは違法行為だが、そういう状況を作り出したのはマシタ氏本人の責任であり、上司や会社に非はない、というストーリー。

 上級管理職2名の保身連携プレイ。と同時に嫌がらせでもある。上司に進言するとこういう目にあわされる、と伝えているのだ。権力行使で弱い立場の者に責任と問題が押し付けられるだけ。二度と上司に進言しないよう、暗に教育されるのだった。
 ああ、本当になんてタチが悪い… 


 人事部長からして、責任逃れのダークな歯車に積極的に加担しているのだから、会社にまともな貢献をする社員が育つはずもない。
 ウィルコムのねじ曲がった社風は、社員の意識が原因の一つだが、その社員意識を醸成しているのは… 人事部の関与が小さくないのでは、ないだろうか…


 @DruckerBOT あらゆる組織が3つの領域における成果を必要とする。すなわち、直接の成果、価値への取り組み、人材の育成である。これらすべてにおいて成果をあげなければ、組織は腐りやがて死ぬ。


 クバノ氏は、マシタ氏の反論に聞く耳を持たなかった。さらに、反省がないと翌日もマシタ氏を呼び出した。執拗。粘着。「上司への報告が足りませんでした。以後気をつけます」とマシタ氏が言うまで、会議室に拘束した。人事部長というのは、案外ヒマなのだw

 普通の会社なら、上司と部下の間の情報共有うんぬんの話は、現場の当事者同士で行われる。人事部長が出てくるなど、聞いたことがない。

 しかしウィルコムでは、上司の嘘を正当化し、部下へ圧力をかける役割として、人事部長のすばやい登場が機能するようだった… 



 マシタ氏をやりこめて自席へ戻ったクバノ氏は、マシタ氏の発言で気になることがあった。
 社員1人1人に残業時間の上限値を定めて残業規制するウィルコムのやり方は、違法性が高く、2001年の厚生労働省の通達で明確に禁止されているという。


 調べると、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」という通達が見つかった。その中に、こんな文章があった。


「労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。」−−2.(3)ウより。

「また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。 」−−2.(3)ウより。



 それはまるで、ウィルコムの残業規制手段を、違法にするために存在するかのような通達であった。



 しかし、とクバノ氏は思う。そ・ん・な・こ・と・は・わ・か・っ・て・い・る。
 残業の上限値はあくまで「目標」に過ぎず規制ではない。残業した分は申告するよう指示も出している。

 ただ、「目標」の値をどのように解釈するかは社員の自由だ。社員が自主的に上限値以上の残業を申告しないならば、違法ではない。実際に申告しづらいような社風だったとしても、それは証明しづらいだろう。よって、違法にならない。うるさい社員がいたら圧力をかければいい



 そこまで考えて、クバノ氏はおもむろに、ため息をついた。
 こんなこと、やりたくてやっているわけじゃない、と、ふと思ったのだ。


 だが一方で、職権での圧力や、社員のプライバシーを自由に覗くことに対し、趣味的な感情を抱いてないかというと、自分でもよくわからなくなっていた…


(2010年6月8日〜17日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その33

■ 免許剥奪リスク対策


 2009年元日。
 タソモト氏は、キクガワ氏が大きな太陽になった夢をみて、目を覚ました。体じゅうに嫌な汗をべっとりかいていた。


 ツミオ氏の悪夢は、もっとひどかった。
 データ通信ARPUアップ(向上)の海に溺れていた。アーップアップアップアップ…


 金を使わず、即刻データ通信ARPUを上げろ! 俺がほしいのは結果だけだ! というテラダ氏の命令。
 昨年秋から日増しにきつくなる罵倒まがいの催促に、上司のサンドバッグ人生を進んで受け入れたツミオ氏も、皮が破れ、中の砂がザーザーこぼれ落ちそうだった…


 テラダ氏の変化、というか悪化は側にいるせいか手に取るようにわかった。何をやってもうまくいかず、ついに上層部から干され始めた。
 遅すぎたくらいだ、と正直、ツミオ氏は思う。ツミオ氏だけではない。部下の信頼も、失いつつある。

 おそらく当人も肌で感じているのだろう。前以上にいらだちを隠さなくなった。かと思えば、急にやたら馴れ馴れしくなったり。気味が悪い
 …けれど気持ちはわからないでもない。ただ、テラダ氏の発言はどんどん、テラダ氏寄りのツミオ氏の耳にも、あまりにおかしく聞こえていた。

 これまでならさほど問題にしなかっただろう。が、会社がやばいという話もよくある噂レベルではなさそうだ。まだ妻には話してないが、最近、白髪が増えた、と言われた。

 テラダさんがこれ以上おかしくなりませんように。そして、八つ当たりが減りますように… 
 ツミオ氏は初詣で手を合わせた。



 WILLCOM悪夢は、現実の中にあった。
 2009年1月下旬、世間へ向けてその最初の兆候が示された。
WILLCOM CORE」っていうのは、実はあれ、次世代PHSのことだけじゃあないんですよ、みなさん


 …とな? ちょっとキクガワさん、それはなぞなぞか何かですかい?


 WILLCOM COREには3GやWiFiも含まれる。そう、たとえるなら「沖縄県外」に辺野古が含まれるようにね… え? 何のことかわからない? そりゃそうだ、だってもうひとつの未来のことだから



 沖縄県以外の、もうひとつの未来へ向け、ガス欠隠蔽列車がアクマの業で走り出す… 
 途中の主な停車駅は「社長辞任」「次世代PHS失敗」「事業再生ADR」。
 急カーブもございます、どうか皆様、振り落とされぬよう。
 最初の停車駅は、免許剥奪リスク対策ー、免許剥奪リスク対策ー。



 免許剥奪リスク対策その1 順調に見せかける。→ WILLCOM単独で「順調デス」と唱えるより、次世代PHSで他の企業とコラボしてる風に見せかけてPRするのが、より効果的。

 正月休み明けから、一部の次推室メンバは、他企業との「共同実験」作りに動き出した。それ自体は、一見、まともな動きのようにも見える。

 次世代PHSの試験サービス開始(4月)に合わせ、他企業と共同実験を行えば新サービスのPRになる。実験した企業とも親密な関係発展につながり、ビジネスの可能性が生まれる。そのための第一歩として共同実験。 …うん、いかにもな響きだ。


 実際、アサバラ氏は、そう考えていた。昨年始まったコスト削減施策3Rも、リーマンショックへの懸念か、もしくはリーマンショックを口実にした(会社内の)弱者締めつけくらいに考えた。まさか会社倒産のリスクとは思いもしない。次世代PHSも、結局はうまくいくはず。

 だってウィルコムは国や大物財界人をバックにつけた企業だから。最後にはつじつまを合わせるはず。その印象でアサバラ氏は、深く考えず見ザル聞カザルで過ごした。どうせ自分が気にしても、何ができるわけでもないし。


 上司は「共同実験だけできればいい」と言う。通常は実験→サービス化を将来的に想定するわけだが、次世代PHSの「将来」は幻の人参である可能性が高い。サービスに耐えられないインフラ。 …いや、いや! 考えるな! そんなことは俺の知ったことじゃないっ


 「共同実験だけできればいい。プレスリリース(世間へのPR)がゴール。
 サービス化は別の話」

 その上司の指示だけアサバラ氏は耳に入れた。



 ヒレバ氏もまた、次世代PHSの事業立上げを順調に見せかける「共同実験」作りに動く一人だ。
 ヒレバ氏は、威厳を装うための伊達メガネのブリッジを神経質そうにいじりながら、年上の部下のナガラ氏に言った。


 もし(次世代PHS立上げが)本当に順調なら、サービス開始前に共同実験作りなんてしない。インフラや端末や一般サービスの質を高めることに注力する。本来ならそっち方面でやることはいくらでもある。しかも、今回の「共同実験」は単なる実験だけ。実験ありきで、その目的は他の企業の看板w

 つまりウィルコムは他の企業の看板を利用して次世代PHSは順調だよと世間にアピールしたいわけ。ナガラさん、これは高いスキルが求められる仕事ですよ。調整や交渉の勉強ができるいい機会じゃないですか。私のやり方を見ながらね、しっかりと勉強して…


 ナガラ氏は思う。ヒレバさんは妙に得意そうだ。隠したり、ごまかしたり、そういうことがおそらく好きな性分。人を操って、コントロールしている気分が好きで、それを組織の要請でやる。気味悪く安っぽいが、そういうことで優越感に浸るタイプなのだろう…

 しかし、ヒレバさんは自分の直属上司。俺の評価(年収の額)は言ってみりゃこの人次第。
 はーーーっ………。神妙に頷く俺もまた情けないヒレバさんも、そんな話を俺にしないでくれたらいいのに


 MVNOパートナー開拓担当のヒレバ氏とナガラ氏がつきあいのある会社は、主にISPや通信事業者、メーカーだ。しかしこれらの会社は、ヒレバ氏が次世代PHSの魅力をアピールしても、いまいち反応が鈍かった。UQの進捗や情報開示と比べ、次世代PHSはどうも胡散臭く見えた。

 何かと情報が伝わりやすい近い業界の会社に、共同実験を持ちかけても難しそう。そこで候補に挙がるのが、かつて出資交渉には失敗したが、妙なパイプが細々と続いている会社。その一つに、鉄道会社から紹介のまた紹介で辿り着いた、クレジットカード会社の事業があった。

 かつて他社に「共同事業でもあれば」と言われたWILLCOM経営陣もそれが出資を断る常套句だと知りながら、アイデアを出せと次推室へ落ちてきた案件。紹介の紹介の、というか、たらい回しにされていたパイプが、おかしなところで役だった


 クレジットカード会社(大手)は加盟店のPRをすべく広告代理店と組み、デジタルサイネージ事業を考えていた。横浜で開国博Y150が4月に開催される。人が集まる。あのへんの駅の構内に大型ディスプレイを置くプラン。

 ディスプレイへ広告や情報コンテンツの配信を、当初は有線でやる予定だった。そこでウィルコムは次世代PHSを提案した。うちの新インフラなら大容量コンテンツを無線でさっと送れますよ。有線の工事もいらないし、ディスプレイを好きに移動させることもできますよ。

 ただ、4月の試験サービス開始時に横浜はエリア外なのですが、ご採用頂けるなら専用の基地局を建てましょう。費用負担なし。全部うちが持ちます。今だけのご奉仕大出血キャンペーン!!(とまではさすがに言わなかったが) どーですか?(至れり尽くせり、断る理由ないでしょ?)

 クレジットカード会社側にすれば確かにおいしい。ウィルコムをプロジェクト(PJ)へ入れる話は社内の斜め上の方から降ってきて、マストではないが、無下にもできない。端末も通信費も全部タダ。技術サポートも当然すると言う。では、このPJでウィルコムの目的は何なのか?

 目的は技術的な実証実験です! とヒレバ氏は言った。あと、もしできれば…プレスリリースのときなどに、次世代PHSのことを可能な範囲で結構ですのでアピールしていただければ… 

 まあそれくらいなら。PJのメンバ達は思った。まさか国の免許で行う次世代PHSのインフラや端末が、未だ運用できないレベルとは思いもしない
「試験サービス」という言葉が気になったが、ヒレバ氏は「実際は、エリア限定サービスのこと」と言った。我々は通信のプロですよ



 試験サービス。実際は、エリア限定サービス。
 してまたその実態は… 免許剥奪リスク対策でやらざるを得なかった、


 サービスという名の単なるモルモット的技術実験…  



 4月に試験サービス(エリア限定サービス)、10月に本格商用サービス。会社の体面を守るためスケジュール厳守だと言う経営陣。だが社内や協力会社の体制を何年も整えずに来た。上級管理職の現場リーダーは現実無視のスケジュールだと思う。が、保身が勝って経営陣に進言できない。

 経営陣にきちんと進言できないが、部下には言う。経営陣は現場がわかってない、と。部下達の思いは十人十色。とにかく自業自得の部分に蓋をして、スケジュールに沿って上っ面だけでもつじつまを合わせるしかない。みんなで力を合わせて頑張ろう、となる。ああ、お客様不在の酔狂。


 ブワウクを事実上形骸化させたアサバラ氏は、自分のせいじゃないと思いながらも挽回の観念に苛まれた。共同実験作りという命題を上司から与えられ、クロマロ氏がバス会社を紹介してくれた

 そのバス会社は、東京駅周辺の丸の内を巡回する無料バスを運営していた。丸の内なら試験サービス時に次世代PHSのエリア内。バスにWiFi/次世代PHSの変換ルータを置き、バス内でWiFiを使えるようにする。また、運転席付近にカメラを置き、次世代PHSで映像伝送を行う実験を提案した。

 クロマロ氏はいちおうバス会社の紹介をしたがすでに義理は果たしたという感じだったので、アサバラ氏は、またマシタ氏を誘おうとしたが、マシタ氏は次推室から離れていたし忙しそうだったので、タソモト氏に声をかけた。

 カメラで撮った映像を次世代PHSで伝送する。アサバラ氏の頭にあったのはそれだけだったが、それではバス会社のメリットがなく興味を示さないだろうと、タソモト氏はバス内のWiFi利用や、バスがどこを走っているかネットでわかる位置情報サービスの提案を加えた。

 丸の内の巡回バスが無料なのは、丸の内エリアの活性化を志向するNPOが各企業に支援を働きかけているため。よって、バスで実験をするにはそのNPOの承認が必要。アサバラ氏とタソモト氏はNPOへお願いをしに行った。すると、そこには美人のとても可愛らしい丸の内OLが

 丸の内OLの他に、壮年の男性もいたが、丸の内OLの正面に座ったアサバラ氏は、タソモト氏が実験について説明している間、うわの空だった。突然、アサバラ氏は話の腰を折るというか、何の脈絡もなしに言った。「いや、私は37才、独身ですから!」

 丸の内OL、びっくり。タソモト氏も、凍りついた。これは合コン、か? 空耳、か? カカカカカカカカカカカーーーーーー……… 
 気まずい間をおいて、ふふふ、と丸の内OLが笑って、それで済んだ。実験の許可も課題はあるものの前向きな方向で進んだ。とはいえ、勘弁してくれよ、とタソモト氏は思った。ハプニングは嫌いじゃないが、アサバラ氏のそれは、何やら不吉なものを含んでいるように感じられた。


 国や自治体の補助金獲得による地域連携を模索するヤシダ氏へも、共同実験作りの指示があった。2007年に山形県の田舎に高度化PHS基地局を設置した縁から、2008年に山形県と地域情報化、防災・災害対策、県産品PR分野での地域活性化包括連携協定を結んでいた。

 しかし、2009年1月の山形県知事選で、現職が敗れ、民主・社民支援の新知事が誕生したため、ウィルコムとの包括連携協定の行方、具体化はしばし様子見に。


 次推室のその他のメンバ→ サロ氏は、シモム氏の補佐をしながらタケミ氏の面倒を見たが、会社に長年いるからこその何でも屋的なサロ氏の業務は、新人に分担しづらい類のものばかり。また、アサバラ氏のせいで警戒心の強くなったタケミ氏をどうしたものか、持て余していた。


 サイジ氏とタヌダ氏は、ドコモMVNOサービスの運用業務を粛々と整備していた。次世代PHSの立上げセクションにいるものの、次世代PHSの運用業務整備はいつ再開できることになるのやら、あるいはもう、永遠にストップなのか… はあーーーっ……… 


 ウミナガ氏は、イベントやPR関連の業務がコスト削減でなくなったため、次世代PHSの技術検証部屋にこもり、機器のチューニングに勤しんだり、検証部屋の社内向け利用マニュアルを作ったり。


 あと… 名ばかり「兼務」のゴリセ氏は、1月下旬の新製品サービス発表会で「どこでもWi-Fi」をリリースすべく準備に追われていた。ゲーム機との親和性をPRすべく「任天堂公認!」とか言いたかったのだが、ナローバンドのPHS、魅力なきボディ等々の理由でふられていた。

どこでもWi-Fi」の企画初期段階から話を持ちかけていれば何とかなったかもしれないが、ごつい製品が出来上がってしまってから場当たり的に持ちかけても、そりゃあ当然… ムリです! いやいや、む〜り〜〜〜


 いやいや、む〜り〜〜〜、とココムラ氏とツヅキ氏は、感じざるを得なかった。ほんとムリ! アサバラさんと一緒に仕事をするのは、もう勘弁してもらいたいっ!! 


 いやいや、む〜り〜〜〜、と元次推室のマシタ氏も、京都の医療センタの休憩室で感じざるを得なかった。プレゼンを終え、会社のメールをチェックした。テラダ氏からのメールを読むと、つい削除しそうになった。勘弁してくれよ〜っ。なんだ、こりゃ?


 ココムラ氏とツヅキ氏は、アサバラ氏の相手が面倒だった。アサバラ氏の口癖「みんな死ねばいいのに」。アサバラ氏が言うと、どうにも粘着質で、笑えない。黒い影が迫ってくる感じ。ココムラ氏「…また、そんなこといって…」。ツヅキ氏「………」。

 かつてタケミ氏を悩ませた罰ゲーム的な席で、ツヅキ氏もまた、閉じた貝になった。その態度にアサバラ氏はいらだち、ココムラ氏へ当たり散らす。新人をもっときちんと教育しろ! と。よく言うよなー、単なる責任転嫁じゃないか、自分が死ねばいいのに、とココムラ氏は思う。


 入社三年目のココムラ氏にとって、ツヅキ氏は初めての後輩なのに、5才も年上の後輩で、遠慮がある。ツヅキ氏は英語が堪能のため入社早々に海外出張した。ココムラ氏は内勤ばかりで国内出張すら一度もない。スキルや適性だからしかたないと思いつつも、複雑な気持ち

 ココムラ氏はブワウクの庶務をツヅキ氏にやってもらいたいが、教えても思ったとおりの成果が出ない。二度手間になる。そういう業務にツヅキ氏は興味なさそうにも見える。帰国子女だからか性分か。一方、アサバラ氏は怒鳴る。何もわからず丸投げする。板挟みのココムラ氏… ぐうっ…

 シモム室長へ相談してもどうせ迷惑がられて相手にしてもらえない。逆に怒られるかもしれない。ココムラ氏は思う。…キツすぎる… 何で俺がこんな目にあわなきゃならないんだ… くそっくそっくそっ…


 くそったれ〜っ、と、つい叫びそうになったのは京都の医療センターで会社のメールをチェックしていたマシタ氏だ。上司のテラダ副本部長が、わざわざマシタ氏の出張日を狙うかのように、陰険なメールを送ってきた。マシタ氏が年末にサービス残業したことを何やら怒っているのだ。

 どう怒っていたか? 見ると、マシタ氏がオヒデGLの注意に従わなかった、とメールに書いてある。注意を無視して、残業した、と。

 たしかに、年末にマシタ氏は、残業するなとオヒデGLに言われた。が、プレゼン資料は作らなければならない。だから、サービス残業をした。会社で数時間やり、残りは自宅で資料を完成させた。

 急な仕事にもかかわらず「業務時間中にできないのが悪い」と言われてのサービス残業。あまりに悪質な言いがかりだったため、マシタ氏は、いくらコスト削減とはいえそういうやり方はマズイのではないか、と人事部へメールを出していた。その反響に、違いなかった。

 テラダ氏のメールには「(マシタ氏が)年末に残業したことは事実であり、会社としてサービス残業を許容できません。…12月に実施した作業時間どおりの残業時間を記載すること」とあった。たった数時間程度の残業代を是が非でもほしかったわけではないが、まあ普通の対応だろう。

 しかし、そこからがキ印じみていた。都合悪いことは「聞いてない」という例のテラダ戦法を持ち出して来た。医療センターへの提案話など聞いてない、承認してない。したがって、残業の内容はマシタ氏が勝手にやったことだ、というサービス残業をさせた責任逃れの屁理屈。

 サービス計画部内だけの案件なら、現場リーダーのテラダ氏は事実を曲げられる。が、京都の医療センターの件は、社内の医療部門の部長やキクガワ社長も承認していた。テラダ氏がいくらうそぶいたところで通るわけもない。テラダ氏のとぼけっぷりは、いつにも増して度を越していた。

 妙なことに巻き込まれた… マシタ氏はノートPCを閉じた。明日、会社へ行くのが憂鬱になった。マシタ氏は、窓の外の京都の晴れた空に向かって、どうかテラダさんがこれ以上おかしくなりませんように、と祈った。


(2010年6月1日〜8日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その32

■ 先日取り上げた…


 先日取り上げたKDDIau)社員。こんなことを、つぶやいた。

 RT @sattak 漏洩の事実を提示してくださいねー。RT @willcomreal …ところでKDDIau)に個人情報を預けている方々へ。あそこの一部のモラルなき社員は身勝手な思い込みで個人情報らしきものを簡単に漏えいするようなのでご注意を。オーコワwww


 こんなこと言うのは、彼は自分の問題のツイートをすでに削除したからw 感情的になってやったけど、さすがにマズイと思ったんだろーね。

 とっくに削除したから証拠なし。どーだ、事実を示してみろ、と。なんともはや… ヒレツだなー


 放っておこうかと思ったが、KDDI社員のモラルに疑問を感じてRTしてくれた方もいたので、ツイッターの神サマお星サマに、お祈りしてみた。すると、塵よりよみがえり。

 データ保存!! willcomrealは、事実を手に入れた

.@kddipr KDDI広報部さん、KDDI社員は業務時間中にツイッターしていいのですか?大量のTL読んだり呟いたり、結構な時間費やしてますよ。ソフトバンクさんは公式に認めているようですが、孫さんと違い、小野寺さんはやってないようですし。それに、一部のモラルなき社員は、職務上知り得た個人情報らしきものを、自分の身勝手な思い込みでツイッターで漏えいしていますが、そのあたりの管理はされないのですか? 個人情報を預かる商売の会社として、極めて重要な問題ではないでしょうか。この件につきまして何らか対応頂けるのでしたら、willcomreal@gmail.comのほうへご連絡いただければと存じます。


 KDDIさんには、大企業病にならず、それこそ稲盛さんの「経営12ヶ条」をどこかの会社のように建前化せず尊い理念を率直に実現していってほしいんですけどね。

 このツイートは読者がもうひとつの過去、そうであったかもしれない過去のフィクションとして楽しんでくれている。真実味が増すのはほかでもない、元ウィルコム社員と公言するKDDI社員のような人が、意味不明に騒ぎたてるからだ。それを見て、読者は「思ったより本当?」と思うw

 かつてのWILLCOM不都合な真実をひたすら隠蔽し、「なかった」ことにする社風。経営陣は経営陣の立場で数字に嘘をつかせ、一部のミドル層は保身のため情報を上に伝えず、現場の事実を捻じ曲げる。そりゃ会社は潰れるわ。今はどうか。


 WILLCOMとしがらみのない、さまざまな利益を代表する経営陣が入ってきた。外部監視の目も。が、ミドル層以下はあまり変わらず。こんな状況のためミドル層はいっそう自分に不都合なことは上に言いたくない。歪んだ情報が社内にのさばり、まっとうな経営判断の邪魔をし、社員をヒマにしてないか


 これだけ多岐に渡る内容のwillcomrealの真実味、リアルさの強度がどれくらいのものか、客観的に判断できるのは情報を集められる立場にいるはずの現経営陣や株主だろう。
 こうだったんじゃないか、という仮説が頭にあれば、ミドル層が邪魔をしても、適切な情報を集められるかもしれない


 集めた上で、また隠蔽したりしてw そうなったらもう… 

 真の事業再生をめざす良心、良識に期待したい。

.@kddipr 個人情報を誤って流出した場合、二次被害の防止が必須です。そのためメールでのやりとりを求めましたが、KDDI社員は「事実を出せ、出せないのか」とツイッター上で叫ぶ始末。わざとでしょうか?どういう教育をされているのですか? 今後はメールで対応させて頂きます。

RT @tomikura とは言いつつ、@sattak の方が分が悪そう。イシダと言っちゃってるわけで……。@willcomreal がイシダじゃない場合、イシダさんへの誹謗中傷だし、イシダだった場合、まさに業務上知り得た情報を云々なわけで……。


RT @sattak @tomikura えっと、イシダなんて人は該当部署に居ません。なのになぜ私は煽られるんでしょう。冷静に考えておかしくありませんか?


 それにしても、今回被害に遭われた方がこのことを知っているのかどうか、本当にお気の毒。


 ハニービーの生みの親? はて? 働き者の蜂たちは誰を「お父さん」と呼ぶかなー。


※ willcomrealを煽った人は、ツイッターの自らのプロフィールに「KDDIで働いていること」「以前ウィルコムにいたこと」「ハニービーの生みの親」であることなどを書いていましたがプロフィールからそれらの情報を一切削除し、がらりと変えています。



 さて、本編、再開します。



(2010年5月28日〜6月1日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その31

■ 悪のソフトバンク幻想


 WILLCOM社内にあるSOFTBANKへの印象。
 なぜそうも軽蔑するのか。ウィルコムソフトバンクイーモバイル格下に見ていた。奴らは一見結果を出しているが、それはモラル欠如の卑劣な手法であり、詐欺まがいのマーケティングで世間を騙しているに過ぎない、と。


 たとえばデータ通信の速度。カタログに掲載する数値は最高速度(ベストエフォート)だが、実際の速度(実速)はひどいもの。奴らのネットワーク(NW)はボロボロだ。まともな技術者がいない。実速ならPHSもさほど見劣りしないはず。PHSのNWは質も高い。通信事業者の誇りが奴らにはない

 ただ、ウィルコムはPR下手だから負けている。PR下手は、実直まじめさの裏返しなので悪くない。PHSの品質には自信がある。使ってもらえばわかるはず。奴らはペテン師、そのうち失速する。世間も気づく


 前にも触れたが、SOFTBANKを叩く記事が出ると、誰かがわざわざ雑誌を買ってきてコピーを回覧する。WILLCOMの取引先の中にはそういう社風を知り、あることないこと吹聴する人も。広告代理店ならではの情報… 業界コンサルならではの情報… あそこはもう潰れますよ。

 社員の中にも、ウィルコムへ来る前の仕事でSOFTBANKや@masasonにひどい目に遭わされた、あれは社会の敵存在しちゃいけないまことしやかに吹聴する者がいたり。しかし、所詮は噂レベル。半分遊びならともかく、なぜそれほどまで「悪のソフトバンク」幻想固執するのか…


 成果を出せないことの言いわけ? それもある。もっと自分たちで動けばいい。だが、ウィルコムはヤツルギ氏更迭の前例もあるとおり、成果を出した者の成果を逆手にとり、陰で勝手なストーリーを作り上げて否定しようとする陰湿な社風。成果よりも、情報操作が大事。


「三つの頭」が派閥の力でヤツルギ氏を追いだした。そう思う社員たちの集団は、組織の異様なあり方に日々接するにつれ、次第に主体性をひそめていく。ポジショントークのスキルこそが保身に必要と体に染み込ませる。

 ところが、主体性をひそめるほど水面下でエゴが膨らみ、いっそうやっかいな社風に。
 とくにWILLCOM中間管理職は表面的に上司に従い、裏で消極的な反抗を繰り返す。だから仕事がきちんと進まない。おかしくなる。その態度を部下がまた見る。それが当然となる。


 もちろんWILLCOM社員全員ではないが、とてもタチが悪い。経営者の立場から見て、表向きは従順で、裏でこそこそ消極的な反抗をする中間管理職ほど、面倒でやっかいな部下はいないのではないだろうか。



 WILLCOMの一部は会社分割され、SOFTBANKへ移管。
 人はどうする。
 WILLCOMでさんざん「悪のソフトバンク」幻想を謳った社員は、経営者が変われば表向きは神妙にし、裏で面倒なことをする。
 それで会社は潰れた。
 潔く前向きになれる人材を見抜けるか?
 難しそうだ。



 .@masasonさんがWILLCOMを引き取らなかったのは、金やPHSの将来性もあるが、ウィルコムイズムで倒産した会社にあるだろう「ヒトの問題」を考えたからではないか、とも思ってしまう。誰かから聞いたのかもしれないし、察したのかもしれない。賢明な経営者なら第一に考えること。

 また、成果というのは本当にやっかい。元ドコモの@tnatsuさんの元部下が「おサイフケータイの父」を名乗っているのは有名。彼はそれなりに貢献したのかもしれないけれど、ときには案件に多少関わった者、チームの隅っこにいた者が「〜の父」と謳ったりすることもあったり。


 仕事をする上で、潔さ、深いところでの正直さは本当に大切。でも、それは希少な存在。



 そうそう、WILLCOMの管理職さん、パワハラなんてしてる場合じゃないですよ!!



サービス残業の話のつづき


 さて、本編… 残業自主規制の話。まずは、前回ツイートを再掲。

【再掲】モバイルコンテンツ業務は、新端末やコンテンツが出る度、サイトのバグチェックに時間を要する。前述したとおり、来るもの拒まずで品質管理をしないコンテンツ群は、ユーザの期待に応えられない。が、精査再検討されることなく増え続け、比例して労働力を奪い続けるという悪循環。


 経営戦略会議から外され、データ通信ARPUを向上させろと言われたテラダ氏は、良くも悪くもコンテンツ業務に執着した。
 サービス計画部に分配された残業時間数の多くを割り当て、さらにオーバーしても構わなかった。

 全社的な残業時間の管理は、経営戦略会議での毎月報告によってなされた。本部単位の報告だが、サービス開発本部はスマートフォン企画業務とコンテンツ業務の残業時間が突出していたため、他部門を締め付けるだけでは吸収しきれない。

 いつも残業時間の上限値を超えた理由を問われ、「スマートフォンとコンテンツ」と答えた。経営陣はなぜかそれ以上問いたださない。テラダ氏にしてみれば、残業時間の上限値を言いなりになって守るよりも、データ通信ARPUを上げて見返してやる方が重要だった。

 だが、無視しすぎるのもマズい。よって、溢れた残業時間の調整弁として、サービス計画部の他のセクションや次推室の業務が締めつけられた。

 サービス計画部の従来の残業時間の平均値は1人あたり60時間/月。これが50%削減され、30時間/月が上限値。それに対し、次推室は1人あたり17時間/月が上限値。

 次世代PHSの先行きが不透明とはいえ、社内でも表面上は「着実に進んでる」風。立上げ準備の業務(というか、不毛なつじつま合わせの業務)はいくらでもあったのに、厳しい残業規制。それはテラダ氏とシモム氏の不仲によるところも大きいが、シモム氏はテラダ氏のプチ嫌がらせをすんなり受けた。


 残業規制が厳しくても(シモム氏のような)管理職の給料には影響ないし、非管理職の部下には残業時間の上限値を示して、今まで以上にやるべきことをやれと指示すればいいだけのこと。それで部下が文句をいうなら、業務遂行能力なしと、評価に影響させればいい


 ウィルコムは業績評価と年収を連動させる給与体系だ。業績評価制度である場合、前提としてフェアな労働環境が原則。個々の社員に対し、労働時間数の偏りを助長したり、差別的な管理をすることは、本来マズい。

 ま、成果を出しても、成果として一切評価されない社風なので(ときには更迭も。ヤツルギさん…)、業績評価制度の存在は、建前と本音のオトナチック病を悪化させるだけのものだったが… ただこれはウィルコムだけのことではないだろう。


 社員個人の残業時間の管理方法は、自主申告制。当人が日別にやった分だけシステムの勤務表に入力する。後で上司がそれを見て、承認する。日々承認する上司もいれば、半月分をまとめて承認する人もいる。

 だから部下も数日分をまとめてシステム入力したり。給与計算締め日の毎月末には、「勤務表データをすべて入力してください!」と人事部から全社員へメールが来て、皆あわてて入力したり、承認したり、という日常。


 前にも少しつぶやいたが、ウィルコムのモバイルコンテンツ業務は、仕事のやり方を抜本的に見直す必要があった。

 そもそも大前提として、ウィルコムユーザは音声利用を目的とする「2台目ユーザ」が多い。1台目の他キャリア端末で質の高い便利なコンテンツをサクサク使えるのに、わざわざ2台目のウィルコムを使うわけがない。

 ではウィルコム1台のみのユーザーをターゲットにするか? しかし彼らのことはほとんどわからない。データ通信ARPUでどれくらいの伸びしろがあるのか。そのためにどんなコンテンツを用意すればいいか。限られたリソースをその方向へ注力させるべきかどーか。判断材料が何もない。

 他キャリアのメジャーコンテンツで、ウィルコムにないもの。それを用意すればいいという発想も、金と交渉と技術の問題がある。右肩上りのコンテンツ会社は、ウィルコムにさほど興味なく、「通信キャリア」の看板など交渉材料にならない。ウィルコムはとにかく金をかけずやりたい。

 金をかけず、社内調整もなるべくせず、これまでの延長線上で、手間をかけず、ぽんっと出せばユーザーがガバっと飛びつくコンテンツ…(そんなものあるか!)…あるかもしれないが、すぐには見つからない。まるで雲をつかむような妄想。

 なら発想を変え、今すでにあるコンテンツを見直せばどうか? 赤字続きのものは切り、作業負担を減らす。それで少なくとも残業時間を減らせる。ただ、コンテンツの数もばっさり減る。見栄えが悪い。何だか斜陽な感じ。枯れ木も山のにぎわいか、なぜか選択と集中をしない。

 よって妄想の雲がふわふわする中、コンテンツ担当は日々の作業に忙殺される。忙しいけれど成果は出ない。単純に作業量の多さで残業しているため、多忙なわりにのんびりやって休憩時間が多いようにテラダ氏には見えるが、締めつければ明白すぎるサービス残業の違法行為だ。

 残業自主規制はするが、「(残業を)やった分はきちんとつけるように!」と、いちおうの言葉だけでも部下へパフォーマンスするよう、上級管理職は人事部から指示を受けていた。サービス残業を問題化させないための対策の一つである。

 したがって明白すぎる残業を締めつけるのはマズい。その点でコンテンツ担当は恵まれていた。営業部門などは建前と本音のオトナチック病がひどく、部の会議が夜に行われても、残業時間にできない

 手口はこのとおり→ 部のトップが会議の出席者に「(今日の分は)ちゃんと残業つけろよ!」と言うが、会議後に直属上司がやって来て、「おい、わかってんだろうな!(残業つけるなよ!)」と釘をさす。ありがちな手口。タチが悪い。

 部下の目から見ると、部門トップの発言がパフォーマンスなのか、直属上司が姑息に勝手な気を回しているのか、わけわからない。推測するにパフォーマンス説がこの会社ではいかにもありそう。いずれにしても損をするのは自分… そんなことばかりなので、ねじれた社風も当然か…



 このところ、まじめにつぶやきすぎかな?w ところでKDDIau)に個人情報を預けている方々へ。あそこの一部のモラルなき社員は身勝手な思い込みで個人情報らしきものを簡単に漏えいするようなのでご注意を。オーコワwww

 そして、KDDIau)の一部のモラルなき社員は、ツイッターのアイコンから自分の顔写真を慌てて外し、ヘンテコな絵にすり替えたwww 事実はフィクションより奇なり。



 ずっと成果を出せずにいる日々の作業を、止めることも見直すこともせず、不毛に続けるだけ。規制による限られた残業時間はすべて浪費され、新しく何かを始める時間がない。そんな状況でテラダ氏にしてみれば、マシタ氏がやっている医療センタの案件になど与える残業時間はなかった。

 医療関連は法人部門の業務であり、余所の業務など知ったことではないとテラダ氏は考えた。医療部門の責任者とも仲良くない。マシタ氏の説明を受けても、向こう(医療部門)に資料を作らせろ、と言うばかり。が、電子新聞の案件なので、マシタ氏にしか資料は作れない。レクチャーするにも時間がいる。

 年明けのプレゼンには医療部門の部長と新聞社の人も参加する。それに京都の医療センタはキクガワ氏とも親密な重要顧客。投げ出すわけにいかない。テラダ氏だけが、会社や顧客より自分のことにとらわれ、残業時間がどうこうとトラブルを起こす。 たかが数時間程度の話なのに

 ちぃぃぃぃーーーーーさい男だなぁーーーーーそんなんじゃあニッポンの未来は…(誰?)

 さらに面倒なのは、テラダ副本部長の保身根性丸出しの近視眼的態度を、部下のツミオ担当部長やオヒデGLが支え、肯定するというヒエラルキー構造
 残業できないなら、資料作れませんよ、とマシタ氏が言うと、彼らはどこかで仕込まれたような台詞を言った。


 資料は作れ。残業はするな。業務時間中に何をしてた。時間内にできないのは自分の責任。自分の責任なら主体的に資料を作ればいい(…主体的?)。家で作れ(…ああ…そういうことか…)。自分のスキルが至らずこうなったのだから当然だろ、と。


 どこか(人事部あたり?)にマニュアルがありそうな陰険なもの言いである。
 個人のスキルという曖昧な問題にしてしまえば、後は権力で押し切れる。部下がプライベートの時間に、主体的、自発的に資料を作るのだから業務でなく、サービス残業にならないというわけだ。

 無駄に細かく、陰険、意固地になる。それもまた偏った残業規制の大きな弊害。
 しょうがないのでマシタ氏は、職場で資料の半分を作り(残業をつけず)、残り半分を年末の自宅で作った。下準備を除けば、たった6時間程度のこと。気にするほどじゃない。マシタ氏はビールを飲みながら冬の晴天を見上げた。



 そういえば、サービス計画部へ異動したマシタ氏の席に、次推室の新人(ツヅキ氏とタケミ氏)が、わざわざ別々に年末の挨拶に来た。
 挨拶の後、とくにタケミ氏は何か言いたそうだったな…、とマシタ氏はふと思いだした。
 2008年が過ぎる…



 WILLCOMの未来をひらく次世代PHSがサービス開始予定の2009年。
 実際は失敗が露呈し、キクガワ社長退任、事業再生ADR会社更生法申請と、傍目には急転直下したように見える2009年が、年末の雲ひとつない青空の先に、明けようとしていた…



 あっっっ!!



 2009年元日。タソモト氏は、キクガワ氏が大きな太陽になった夢をみて、目を覚ました。体じゅうに嫌な汗をべっとりかいていた。


(2010年5月26日〜28日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その30

■ 悪者作り


 2008年はイーモバイルにデータ通信ユーザをごっそり持っていかれた。
 個人、法人ともに被害は甚大だったが、秋から冬にかけて数回の社長メッセージでは、法人ユーザの被害、法人営業部の努力不足が強く指摘された。


 法人営業部の現場責任者は、半年前にウィルコムへ転職して来たばかり。三つの頭の派閥のしがらみなく、最も責任をなすりつけ易かった
 まさか悪者役をさせるために雇った? 外資系大手ソフトウェア会社出身であることも、なぜか周囲の反感を買った。


 全社員向け社長メッセージで法人営業本部が名指しで批判されたため、中間管理職のMtgは責任のなすりつけ合い。
 本部長が新たな営業手法を導入しようとしても、社長に嫌われている本部長の言うことなど、誰もきかない

 知らないこと、馴染みないことはやりたくないという組織気質もある。法人営業部のMtgに参加したヒレバ氏は、次推室へ戻り、Mtgの雰囲気の異様な滑稽さを話した。

 ひどいもんだあそこは。誰もかれもハト胸状態。胸張って突っ張って、オレは悪くないぞってのばかり。新しい本部長も、毛並みの良さをひけらかしてるから、部下の反感買って誰もいうことをききやしない。 悲惨極まりないね、あの本部長は。ちょっと勘違いしてるよ。



 少し先だが、9カ月後、キクガワ社長退任後、クボタ新社長は法人営業本部長のスキルを高く評価し、その営業手法の導入を推進した。すると、法人ユーザの減少は止まってなかったが、ヒレバ氏の口から、法人営業本部長の悪口はピタリと止んだこの種のものは、いーかげんである。



サービス残業のカラク


 無線による情報配信のデジタルサイネージを企画すると、なぜ3GでなくナローバンドのPHSなのかが問題となる。
 通信速度は3G優位。料金は差別化できるほどのメリットなし。しかし、場所が病院内ならば、PHSを使う理由が立つ。

「病院内はPHSが安心安全。3Gは危険」が根拠なき噂に過ぎないかはさておき、少し前まではその通説にそこそこの信憑性があるとされ、PHSは多くの病院の内線電話に採用された。

 ウィルコムは多くの病院と取引があった。マシタ氏が10月に実証実験を始めた毎朝新聞社とのMtgで、病院内デジタルサイネージの話が持ち上がった。エコで人体にやさしい電子ペーパーディスプレイを使って、どうだろうか?

【会社説明】「毎朝新聞社」……全国紙の大手新聞社。フィクションの世界にたびたび登場する。ドラマでは「古畑任三郎」「白い巨塔」「不毛地帯」など。

 電子ペーパーディスプレイのメーカーや、社内の医療担当部門へ打診し、話を進めた。京都にある国立系の医療センタでプレゼンできることが年末に決まった。プレゼンの相手は多忙であり、年明けの1月6日を外すとまたいつになるかわからない。

 正月休み明け早々か… 年内の出勤日あと2日を残し、マシタ氏は遠い目になった。チェックの時間を考えると、年内に資料を整えないといけない。穏やかな年末、というわけにいかなくなった。が、それは急な仕事が増えたせいばかりではなかった。

 ウィルコム中間管理職のサンタさんは、マシタ氏に「サービス残業」をプレゼントしたのでした… ジングルベール♪ ジングルベール♪ カネガーナイー♪ 


 ま、会社が危機なら、一時的なサービス残業くらい(法律上はマズいが)協力してやるけどね…。それが社員の感覚ではないだろうか。ただし…「本当にきちんとした蛇口の締め方をしているのであれば! 」だけど。

 たとえばデータ同期サービスのズボラな赤字垂れ流し然り。
 高給取り経営陣の減給が一切ないのも然り。
 ほかにも、会社は残業時間の上限値を部門単位で定め、部門長の采配に任せる方法で、残業規制を行っていた。

 つまり、サービス開発本部はテラダ氏の思惑で、2つの蛇口が開きっぱなしのザーザー。その分あとの蛇口は厳しく締められていた。開きっぱなしの2つの蛇口とは、データ通信企画室のスマートフォン企画業務と、サービス計画部のモバイルコンテンツ業務。


 秋に始まった残業自主規制のカラク
 まず経営陣が本部単位の残業時間(/月)の上限値を定める。次に部門の現場責任者、サービス開発本部であればテラダ副本部長が、本部内セクション毎の残業時間の上限値を定める。

 このとき、ウィルコムには社員が認識する共通のビジョン戦略戦術がないため、社員たちはそれぞれの方向を見ている。だから、残業時間を分配するテラダ氏の采配は、それまでの彼の傲慢ぷりも手伝い、ひどく身勝手で恣意的に見られた。

 モバイルコンテンツ業務は、新端末やコンテンツが出る度、サイトのバグチェックに時間を要する。前述したとおり、来るもの拒まずで品質管理をしないコンテンツ群は、ユーザの期待に応えられない
 が、精査再検討されることなく増え続け、比例して労働力を奪い続けるという悪循環。


(つづく)



閑話休題


 急にフォローが増えたと思ったら、何やら煽られたようですので、久々の業務連絡です。

【定期連絡】 このつぶやきはフィクションです。 公共にオープンになっている名称にはモデルの実在の名称を使う場合もありますが、実在の人物・団体・事件等には一切関係ありません。感想ご意見はwillcomreal@gmail.comへお寄せください。

 フィクションなので信じない人は信じず、フィクションを楽しむ。(こういうことは本当にあるかも)というリアル感もフィクションの楽しみ方の1つ。フィクション前提とはそういうこと。

 今回willcomrealを煽った人は、willcomrealが誰か知ってるとわざわざ発言し、その誰かのことを「退職となった腹いせか」「問題行動が多かった人物」「懲戒に価することがいくつもあった」と事実無根の中傷をしてますが、それこそいかがなものか。

 前にも一度、似たようなことがありましたが、同一人物かな? willcomrealは彼(今回煽った人)と「いろいろ話した」「納得いかないこともお互いに話した」ことはありません。こういう形でフォローが増えるのはあまり嬉しくありませんね…(…贅沢?)

 どうやら彼はフィクション前提として色々言ってきたようです。フィクション的な対立構造を演じるアエラの「勝間和代×香山リカ」企画のようなものか…

 彼のツイートをざっと見ましたが、強烈なアンチ・ソフトバンクですね。

 しかし、サービス残業の話に入りかけたところで、こういう横やりが来るとは… 


 はい。 RT @nande5489 うざい粘着(@sattak)は無視してドンドンつぶやいて〜応援してる♪ @willcomreal どうやら彼はフィクション前提として色々言ってきたようです。フィクション的な対立構造を演じるアエラの「勝間和代×香山リカ」企画のようなものか…


 あらためて、事実無根の勘違い中傷を日々受けている著名人、ツイッターでいえば孫さんとか、すごいですね。



 一言。さきほどこのツイートを煽った人は元ウィルコムの人で、どういう人かある程度わかりました。「社員の代理で俺が言ってやった」と言ってますが、情報操作を好み、キクガワ社長をやたらと悪人に仕立て上げたがっている模様。

 キクガワ氏についてはこのツイートでも重大責任があるとして決して擁護していないのはおわかりかと思いますが、単純にキクガワ氏だけでなく組織意識、社員意識の問題もそれ以上に重大である、というスタンスを取っています。それが気にいらなかったのかもしれません。

 このツイートの一般的な感想で前から興味深いと思っていたのは、キクガワ氏のことをけちょんけちょんにしているという読み方をする人と、キクガワ擁護派だと読む人と、両方いることです。

 元ウィルコムの人のアツい煽りで、むやみに引っ張り出され中傷された仮名イシダ君には悲惨な展開でしたが、それをどうするかは「イシダ君」の判断に任せたいと思います。ただ、前からここでツイートしていたとおり、今でも一部の社員が身内をやたら庇い、美談に仕立て上げて問題を悪化させる構図が、彼のツイートから読み取れます。更生会社の社員も頑張ってる。それは言葉で主張するのでなく、顧客満足度によってのみ感じられることでしょう。できることをやるのではなく、やるべきをやる。今必要なのは何が問題だったのか徹底的に洗い出し、言いわけ無用の本気の行動を取ることではないでしょうか。

 このツイートは全体が大きな1つのフィクション、もうひとつの過去、そうであったかもしれない過去として作り上げています。ほかのツイートでたまにあるような、普段は事実ベースでありながら、都合悪い時だけ「フィクション」というものとは異なります。

 もちろんこのツイートでも何度も触れているとおり、意識高く働いている社員もいます。ただ残念ながら全員ではありません。他の人のツイートにもありましたが、例外的、異例に救ってもらったという意識を肝に銘じて行動できなければ、真の再生はないし、悪しき社風を後世へ残すことになるでしょう。

 彼のツイートでは、ウィルコム社員は頑張っているそうです。プロですし、更生会社ですから、頑張ったけど駄目だった、では済まされません。その頑張りがごまかしでなく、長年のユーザや世の人のための確かなメリットとなって、一日も早く実現することを願います。


 ウィルコムの今後のサービスの品質によってのみ、社員の頑張りが本当かそうでないか世間は判断する。その覚悟をもって行動することが本当に大切。 RT @leticialuticia ジャッジメントですの。


 ただ、一部の社員は、業務時間中にTLを長時間眺めていたり、私的なことを大量につぶやいたりしてるけど…ヒマそーにね (こんなこと書くとツイッターさんに怒られたりしてw)



ウィルコム社内にあるソフトバンクへの印象について、後で少しつぶやきます。


(2010年5月22日〜26日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その29

■ 前向きな信条の欠如


 2008年12月中旬。
 大手新聞社系列の産京デジタル社が、iPhone/iPod touch向けの無料アプリを公開し、電子新聞サービスを開始した。

【会社説明】「産京新聞/産京デジタル社」……大手メディアコングロマリットの新聞事業。全国紙の中で、新聞記事のデジタル化に最も実験的に試み、注力している。


 産京デジタル社は、以前より、パソコン向けに電子新聞サービスを行っていた。新聞を丸ごとPDF化し、紙の新聞のテイストを残しながらズームで記事を読めるようにしたものだ。

 そのサービスのiPhone版がリリースされる話を聞きつけたマシタ氏は、産京デジタル社とソフトウェア会社へコンタクトし、ウィルコムのD4端末向けにもできるかどうか話し合っていた。


 なぜまったく売れてないD4向けなのかと言えば、ウィルコム端末の中で最も画面サイズが大きい(03ではあまりに読みづらい)、話題性のある電子新聞サービスをPRできれば多少とも販売促進効果があるのではないか、他の新聞社と共同事業の話がしやすくなる、 といった理由だった。


 クソミソのD4だが、価格の問題を解決できれば、バスやタクシー内でのデジタルサイネージ端末として興味を示す新聞社がいくつかあったのだ。ウィンドウズビスタをXPに変え、その他いろいろカスタマイズで操作性を上げられれば… モノは使いよう、というやつだ。

 交渉の末、産京デジタル社からコンテンツ提供の快諾を得た。ソフトウェア会社は、ウィルコムの取引先でもあったため、D4向け開発費用を折半し、ウィルコムの負担分は300万円でどうか、となった。

 マシタ氏がツミオ氏へ相談すると、300万という数字に難色を示した。さらに交渉し、100万円になった。再度ツミオ氏へ話すと、D4はデータ通信企画室の担当のため、いったんそちらへ預けることに。 こりゃダメだな、とマシタ氏は思った。が、それ以上どうしようもなかった。


 金がない組織の弊害は多々あるが、その1つに「金がない」本音を理由にしたがらない心理がある。
 他の妙な理由をこさえて却下する。権限の問題。利益の確実性の問題。いつまでにいくら儲かるんだ? の問いに、○○までにXX円です! と断言できなければ却下。断言すると、根拠は? となり、根拠を示すと、これは根拠じゃない、俺は根拠と思わない、となり、ではどんな根拠が必要か、と尋ねても答えなく、ムリだな、となる。テラダ氏とマシタ氏のやりとり。
 マシタ氏が「私がツミオさんと相談して、予算の都合がついたらいかがですか」と訊く。テラダ氏「………」


 ツミオ氏はテラダ氏ほどひねくれていない。「金がない」が理由だと言う。本当に必要であれば他部門から持ってくることはできないこともない。
 但し、それにはテラダ副本部長の許可が必要。予算の都合がつけばテラダ氏は許可すると言っても、そうなるとツミオ氏は動かない。指示があって、動くべきでしょ。

 予算の都合つけろって指示されたわけじゃないでしょ。それで動くのって、反抗してる風に見られないかなあ。自分から動いて何かするなんて… テラダさんに提案するなんて、ちょっと考えられないよ



 iPhoneの産京新聞アプリは公開直後から爆発的なダウンロード数を稼ぎ出し、ソフトバンクのサーバーを逼迫させるほどの勢いで、大きな反響を呼んだ。
 しかしそれでも、ウィルコム社内では貧乏ケチの組織どん詰まり意味不明のネガティブが溢れ返り、時間ばかり過ぎていった… 



 @DruckerBOT 否定の強調は、明らかに前向きな信条の欠如を補おうとするものである。





■ 手遅れ案件発表会


 クリスマスまであと数日の、AM会議でのこと。
 キクガワ社長は、まったくジョークにもならない腰砕けの、不都合な真実のプレゼントを、受け取るはめになった。

 
 9月下旬に、ロキア社がデータ同期サービスの撤退を発表した。ロキア社のデータ同期サービスをウィルコムスマートフォンは採用していた。
 発表から3ヶ月近く過ぎてようやく、撤退の影響について、担当者からキクガワ社長へ報告がなされた。

 2008年11月末時点の法人ユーザー数、約40社。ウィルコムとしては2009年6月末でサービス終了したい。ユーザーのサービス移管方法について。システム会社との契約について。…課題は多々あったが、それよりも驚いたのは、収支報告について… 


 11月実績で、売上げが約30万円/月。対して、経費が約180万円/月。 
 …ん? …んんんっ? んあ? 
 …直近のひと月で、150万円の赤字だとっ!?


 ウィルコムがデータ同期サービスを開始したのは2007年4月。少しずつユーザーを増やし、先月の赤字が150万円。ということは、最低でも毎月150万以上の赤字を垂れ流したということだ。
 1年8カ月(20カ月)もの間… 150万×20カ月=3000万円…!!!??? 


 データ同期サービスの毎月の赤字について、キクガワ氏は一度も報告を受けたことがなかった。それどころか、現場責任者のテラダ副本部長すら把握していなかった。人件費等のコスト削減を始めた一方で、放置の蛇口からコストがザーザー流れ出ていたわけだ。



 データ同期サービス20カ月間もの赤字垂れ流し放置。なぜそんなことに? 
 理由にならない言いわけは、これ→ 1.システム会社と3年のコミットをしていた。 2.俺のやったことじゃない
 …??? 嫌〜な予感がするけど、どーゆーこと??
 

 …3年間の総支払額2.5億円をシステム会社とコミットしており、未達成の場合は違約金として差額支払いが生じる契約となっております… 


 つまり、サービス開始当初から、最低3年は続ける前提の契約だったため、毎月の収支をチェックして把握することを誰もやらなかった。どうせ、どんな収支状況だろうと、3年は継続する契約になってるんだし、と。 …マジかいな? ノンキというか、ノーテンキというか… 

 たとえ3年継続が前提のサービスでも、日々検証し、状況悪ければ報告共有し、再検討のプロセスが必要。しかし、不都合な真実の箱に入れて蓋をしてしまう社風だと、そんな当たり前のプロセスすらままならない。


 ロキア社の発表から3カ月近くも報告が遅れたのは、これ(毎月の赤字)のせいか…。キクガワ氏は、眉間の皺を深めた。「私はこのことを2カ月前にメディアのニュースで知ったが、今ごろ報告するのはどういうことだ?」 

 現場責任者のテラダ氏は沈黙。取り繕うようにツミオ氏が、えーとそれは、と言い、キクガワ氏と対極の、遠くの席の担当者を見やる。担当者は動かない。が、ツミオ氏のイタい視線を感じてないわけなく、重く、いやらしい雰囲気。キクガワ氏のハゲライトが、担当者をスポット照射する。


 あっっっ!! 


 担当者の近くにいたタソモト氏は、キクガワ氏から目をそらせた。いやな記憶が蘇った。西麻布の小料理屋…。
 見ると、データ同期サービスの担当者は、絞首台に上るかのごとく緩慢な動きで、立ち上がった。「はい。申し訳ございません」とひらべったく言った。

「謝るんじゃなく、なぜそうなったのかと訊いとるんだ」キクガワ氏は、声を荒げないが、うんざりして言う。
「はい…。申し訳ございませんでした」と担当者。余計なことは言わず、馬鹿と思われようと、壊れた機械のように同じ謝罪の言葉を繰り返し、嵐が過ぎるのを待つ。

 だって、これ、俺のせいじゃねーし。ひでーよなー、テラダさん、だんまり決め込んで… まーどーせ、担当なんて怒られ役のソンな立場ですよ…。 
 そんな声が、タソモト氏の耳に聞こえて来そうだ。

 毎月の収支をチェックし上司に報告するのは、担当者の業務だ。しかしウィルコムではそんな当然の業務すら、指示がないとやらない。収支のチェックはしても、赤字なので報告しなかったり。報告しても、問題提起しなかったり。受身の担当者は、指示がないからやらなかったと考える。


 担当者の責任ばかりではない。指示されないことを自主的にやると、組織秩序を乱す奴とレッテルを貼られる。
 視野広く意識高く仕事するには窮屈すぎる社風。
 問題が起きた時に「何で事前に報告しなかったんだ!」と、上司が部下へ責任転嫁するため、わざと放置しているかのよう。
 


 いくら報告しても、上司が動かなければ問題は起きる。「報告した」「聞いてない」の水掛け論は権力行使でいつだって上司の勝ち。
 次第に部下の報告は劣化する。問題は悪化する。口頭のやりとりをまさかいちいち録音するわけにもいくまい。根深くタチ悪い社風である。


 記録になるだろうとメールで報告すると、上司は怒り出す。俺は忙しい、大量のメールが来る、お前のなどいちいち読んでいられない。口頭で報告しろ! 
 …いや、だからそれだと、後で問題が起きた時に「聞いてない」になるでしょう… 部下はそう言いたくてもイエマセン。


 つぶやいていて、やや憂鬱になってきた… せっかく良い天気なのに。…やはり、ウィルコムのむやみやたらな救済は、悪しき社風を後世へ残すことになりはしまいか…



 @DailyDruckerBOT プロにとっての最大の責任は、二五〇〇年前のギリシャの名医、ヒポクラテスの誓いの中にはっきり示されている。「知りながら害をなすな」である。




 本来ならキクガワ氏は、担当者より現場責任者のテラダを問い詰めるべき。が、管理職たちはよってたかって担当者を吊るし上げる。
 そうすれば、現場責任者や経営者の管理責任にひとまずは目を向けなくて済む。あくまで担当者個人のせいであり、組織構造や社風の問題にしなくて済む。

 3年間で総支払額2.5億円のコミット。金額高すぎ。誰がこんな契約を? テラダ氏ではない。経営企画部部長。キクガワ氏のシンパ。そのときのAM会議には出席していなかった。引き継いだのはテラダ氏。でも、だから俺のやったことじゃないというポーズ。うやむや。赤字だけ明確。

 質問に答えず謝るばかりの担当者を、ツチハシ副社長が怒鳴った。
 お前が最初からやっていたサービスだろ! もう少し何とか言ったらどうだ!! 
 担当者は凝り固まったが、言葉はさらにガチガチ。…ハイ…モウシワケゴザイマセン…


 タソモト氏は呆れきって笑いそうになった。サラリーマン気質はここまで人を愚かにするものか。
 見ると、隣のマシタ氏は薄ら笑い。つい先日、たった100万円の電子新聞アプリ開発費を「金がない」で却下されたばかり。
 タソモト氏の視線に気づくと、ガーーーっと吠える真似をした。



 AM会議のその他の議題に、PHSモバイルルータ「どこでもWi-Fi」の進捗状況報告があった。進捗の遅れはメーカー側の技術的問題(PHSのせいではない)。仕入れは6000台を予定。毎月500台さばける売上計画。

 先行発売した競合他社製品の説明→ 機能が違うから住み分け可能。影響なし。向こうは3GでこっちはPHS。さらに充電式。ニーズはある。奪われていない。他社製品の売上状況や市場の反応については報告なし。

 向こうは3GでこっちはPHSエネループもある。無線LAN設定ツールのAOSSも。だから大丈夫、と担当のゴリセ氏が力説するほど、場の雰囲気はしらけていった。
 そんな機能いらないんじゃないの? もっとシンプルにさ… 変な機能つけたから仕上げにトラぶってるわけだし…

 が、もうどうにも引き返せない。まるで「手遅れ案件発表会」。
 どこでもWi-Fiは6000台の仕入れに対し、500台/月の販売計画。つまり12カ月間は月間500台販売の商品価値があるという見込み。そりゃおかしいだろ、と、さすがにキクガワ氏は指摘し、見直すことに。



 職場へ戻ると、データ同期サービスの担当者が電話していた。
 …吊るし上げでまいったよ本当に…また胃に穴あいちゃうよ…。
 そもそもが理不尽すぎる職場。彼は数年前にストレスで内臓をやられて以来、どんな仕事の失敗も、自分の責任に感じることを止めたのだった。


 はあ… もうそろそろこの職場もいいかな… ひとまずNTTGに帰ろうかなあ。タソモト氏が思っていると、アサバラ氏の怒鳴り声が聞こえてきた。
 怒鳴られたのはココムラ氏。顔をひきつらせている。

 近くのサイジ氏やタヌダ氏が顔を向けたが、アサバラ氏の癇癪に、またか、という感じ。俺を馬鹿にしてんのか。仕事を舐めるな。というフレーズも毎度。ひとしきり聞いた後、ココムラ氏が「舐めてませんし馬鹿にしてません」と反論すると、それが舐めてんだよ、とさらに怒り出す始末。

 タソモト氏は珍しく割って入った。どうした? とりあえず課題は何? …ならこうすれば。それで解決できる。…うん、じゃあこうしよう。それでOK? アサバラ氏は戸惑いながらタソモト氏と話を進めた。後でココムラ氏から「有難うございました。本当に助かりました」とメールが来た。

「わざわざいーよ」とタソモト氏はメールに書き、「意識を高く持って、先輩社員の良い所だけ真似るようにな」と加えた。


 若い頃にヒドい体験をすると、被害者意識が高じてやっかいな加害者(先輩)になるケースが少なくない。


 タソモト氏が、ウィルコムで、より強く感じたことだった。



@DruckerBOT 自己開発とは、スキルを修得するだけでなく、人間として大きくなることである。うぬぼれやプライドではなく誇りと自信。一度身につけてしまえば失うことのない何か。目指すべきは、外なる成長であり、内なる成長である。


(2010年5月19日〜22日分まで掲載)