予告された倒産の記録 その34

■ クバノ人事部長の告白と悪趣味


 マタイの受難ならぬ、マシタ氏の受難は続く。


 翌日会社でテラダ氏に呼び出された。会議室に2人きり。
 テラダ氏曰く、
 1.マシタ氏が自宅で資料作成したのは会社の禁止行為であり、懲罰の対象になる。
 2.今後は残業時間を著しく減らさなければ、仕事を剥奪して「干す」か、転勤させる


 悪質な嫌がらせ行為の見本。
 今回の「サービス残業」が起きた原因を、どこまでもマシタ氏個人の問題にし、押しつけて片付けようというテラダ氏の姑息な魂胆
 これ、タチ悪いパワハラですよねえ? と、もしツイッターがあればマシタ氏はつぶやいただろう。

 近頃ますますヒステリック気味なテラダ氏の口調。この人は一度、精神病院へ行ったほうがいいのではないだろうか、ともつぶやいたかもしれない…



 自席へ戻ると、ツミオ氏が近づいてきた。
 12月分の勤務表のシステム登録が今日までのため、サービス残業分を登録するようにとのこと。
 年末の高圧的な態度と打って変わり、おずおずと申し訳なさそうに言う。
 上司の指示一つで七変化。カメレオン社員の真骨頂だw

 違法というか、おかしいのはわかっていたけど、しょせんサラリーマンだからしょうがなかったんだよ… と顔に書いてありそうなツミオ氏は言った。「悪く思わないでくれよ、残業代、つけていいからさ…」(なんのこっちゃ?)


 サラリーマンだから、しょうがない。
 ウィルコムだから、しょうがない。
 何かにつけて、そう。 



 午後に、今度は人事部長のクバノ氏に呼ばれた。会議室で2人きり。
 WILLCOMへ入社して半年ほど過ぎたがどうですか? という話から始まった。
 組織のあり方が変わっているというようなことをマシタ氏がいうと、クバノ氏はなんと「この会社には事実上の頭(トップ)が三つあってね」と言いだした。



<豆つぶ>

 単純に個人の業務量の多さで残業時間が嵩んでいる場合は、シェアすることで解決できる。他の人にやらせた方が短時間で同等以上の成果を出せる場合は、他の人へ渡す。それは問題なし。

 ただWILLCOMのように賃金(年収)と個人の業績評価を連動させている会社では注意が必要。業績連動の原則はなるべくフェアな競争環境を前提とするので、個々の労働時間を外部から著しく制限するやり方はちとマズイ。

 たとえば、Aさんの残業は10時間、Bさんは5時間だけ、と上司が差別的に制限すると、労働時間がフェアといえず、長く働ける方が成果も出せるでしょーずるいじゃないかー、となる。ただこれは「何を評価対象とするか」という評価軸との兼ね合いもあるため、制度のバランスが大切。

 とにかく残業しなれば評価されて年収UP! という評価軸なら、誰も残業なんかしないw ま、そんなのないケド。

 また、シェアしづらく、他の人にもなかなかできない類の業務で残業時間が嵩み、コスト削減(残業削減)を優先させる場合は、業務自体をカットする。このとき、その業務を本当にやらないくていいか検討の必要あるが、残業削減が自分の任務である現場リーダーはまともに検討せず近視眼的になりがち。

 ビジネスの芽と社員のモチベーションをのし潰していくウィルコム。計画性なき行き当たりばったり残業削減施策の、重大な弊害。

 コスト削減は、今のままでは明日すらないウィルコムにとって最優先急務事項だが、何につけても、今に至るまでのやり方が悪すぎるんだよなあ…

 更生会社となったことで、これまでの「負のスパイラル」をいったん断ち切ることが可能(ウィルコム経営陣)。→ 負のスパイラル、本当に断ち切ってほしいものです。


 なんと、Yahooのトップページ・バナーにウィルコムの広告が!! 空目か?? 後でもう一度確認しようとしたが、何回リロードしても出て来ない… (ちなみに学割キャンペーン延長の広告でした) 

 確認ありがとうございます。 RT@hiro0024 ほんとだ! VT: http://twitvideo.jp/01dXF RT @willcomreal なんと、Yahooのトップページ・バナーにウィルコムの広告が!! 空目か?? 

 この位置の広告費、とても高いのに… ソフトバンクのお情け? iPhone4の記念大盤振舞い、とかw

 愛が足りないw RT @hiro0024 ウィルコム愛、全開でどうぞ!!(笑)RT @twillcom 何度リロードしても出てこない。auSBMは出たw RT @hiro0024 ほんとだ! VT: http://twitvideo.jp/01dXF #willcom

 グローバル展開を前提にして、パーツを大量ディスカウントで仕入れるのはメーカーの手法ですが(ドコモのT-01AWillcom NSも同じパーツを使ってたり)、これはどうでしょうかね。当初計画にあったような気もしますが… @TadaKhaos

 あくまで個人的な妄想ですが、ハイブリの当初目的はWILLCOMの既存スマホユーザ(約20万)の流出防衛のため、相応の台数を製造見込みだったかもしれません。それが頓挫したか、歩みがのろいので製品の賞味期限が切れる!とメーカーが思って中国で出した。か? @TadaKhaos

 もう一つ。これも妄想ですが、近い将来に、WILLCOMSOFTBANKの3Gを売るため、グローバルモデルの端末を扱います。そのときに、この中国版ハイブリを逆輸入?するかもwww @TadaKhaos


 前回(2009年1月から)のあらすじ→ WILLCOMの悪夢は現実の中にあった。4月には免許剥奪リスク対策でやらざるを得ない次世代PHSの試験サービス開始を控え、順調に見せかけるため他社との共同実験作りが進められる。

 財務崩壊による強引なコスト削減、身勝手な保身根性丸出しの中間管理職に翻弄される中堅若手社員。1月下旬の「WILLCOM CORE」中身入れ替えごまかし作戦…もとい新製品発表会へ向けて、発売前からお荷物気味の「どこでもWi-Fi」のプレスリリースを準備するゴリセ氏。

 またマシタ氏はサービス残業の面倒に巻き込まれていた。突然入った急な締切の仕事を「定時の業務時間内にできないのが悪い」と上司に言われ、サービス残業を強いられた上、今度はサービス残業したこと自体を、マシタ氏の責任だと上司に咎められた。そして、人事部長に呼び出された… 

【再掲】午後に人事部長のクバノ氏に呼ばれた。会議室に2人きり。WILLCOMへ入社して半年ほど過ぎたがどうですか?という話から始まった。組織のあり方が変わっていることをマシタ氏がいうと、クバノ氏はなんと、「この会社には事実上の頭(トップ)が三つあってね」と、言いだした。


<豆つぶ終り>



 頭が三つ。
 社長のキクガワ氏、副社長のチカ氏とツチハシ氏のことだ。
 この三つの頭が組織のナワバリをきれいに三つに分けている。ずっと昔から、今の地位に就く前から、この3人がWILLCOMの実質的な権力を握ってきた


 その縦割り組織の弊害を何とかするために作られたのが、サービス開発本部だったんだけどね、とクバノ人事部長は言った。


 マシタ「でも、ツギハギじゃないですか。機能してませんよ」
 クバノ「結局そうなることは… まあ、そういう問題があることくらい、こちらもわかってますよ」


 わかってるって…。マシタ氏は不安になった。「次世代PHSも、このままじゃ立ち上がらないんじゃないですか? みんな(次推室メンバ)迷走してますよ」
 クバノ「ああ…、タケミさんのこと? それもわかってますよ。いろいろと、彼女には彼女の問題があるんですよ」

 彼女には彼女の問題…。マシタ「誰にだって個人的な問題はあると思いますが、タケミさんの件は、どう見ても組織の問題に見えますよ。それに、サービス開発本部の他のセクションも、上司の恣意的なやり方で、労務管理がバラバラじゃないですか」

 クバノ氏は、「(次推室の)隣のこと(CRM部)ですね。それもわかってます。風邪で休んでも有休を申請せず、出勤扱いになっているケースがあるとか、噂は聞いてますよ」と言った。
 マシタ氏は主に残業管理のことを言ったつもりだったが、クバノ氏は勘違いしたようだった。


 後で知ったことだが、クバノ氏は人事部長の権力を利用し、プライバシー情報の収集を行っているようだったWILLCOMは、本来障害を監視する部署で、070番号発信のログを90日間保管し、システム部でも社内ネットワークのログ(Web閲覧、メール等を含む)を保管している。という噂。

 それらのログへアクセスするには相当の必要性が求められるが、ウィルコムでは外部監視なき、あってないようなルール。人事部長の立場で勝手に理由をでっちあげ、必要だと言えばそれでまかりとおるような「俺が法律!」的な世界。



 マシタ「わかっていて、何もされないんですか?」
 すると、クバノ氏は暗い目つきでマシタ氏をねめつけた。「そりゃあいろいろと考えてますよ。ただ、今更どうしようもないことも多いんですよ。わかるでしょう?」

 わかるでしょう?…って、何が? クバノ氏との会話にどうも少し噛み合わないところがあるとマシタ氏は感じた。まるで、何かを隠していて、それを意識しながら喋っているような感じ。


 そんなことより、とクバノ氏は本題を切り出した。あなたは上司に必要な報告を怠り、その結果、サービス残業が発生したと聞きました、と。クバノ氏の声は急に高くなり、早口でつづけた。

 困りますねぇ、上司への報告は当然の義務ですよ。新入社員がまっ先に教えられることでしょう。あなたは若手じゃないんだから、何でそんな簡単なことができないんですか。ホウレンソウですよ。報告・連絡・相談。しっかりやってくれなきゃ困りますよ!

 テラダ副本部長の逃げ口上「聞いてない」を、クバノ人事部長が言葉どおりに受け止め、既成事実化しようというわけだ。サービス残業をさせたのは違法行為だが、そういう状況を作り出したのはマシタ氏本人の責任であり、上司や会社に非はない、というストーリー。

 上級管理職2名の保身連携プレイ。と同時に嫌がらせでもある。上司に進言するとこういう目にあわされる、と伝えているのだ。権力行使で弱い立場の者に責任と問題が押し付けられるだけ。二度と上司に進言しないよう、暗に教育されるのだった。
 ああ、本当になんてタチが悪い… 


 人事部長からして、責任逃れのダークな歯車に積極的に加担しているのだから、会社にまともな貢献をする社員が育つはずもない。
 ウィルコムのねじ曲がった社風は、社員の意識が原因の一つだが、その社員意識を醸成しているのは… 人事部の関与が小さくないのでは、ないだろうか…


 @DruckerBOT あらゆる組織が3つの領域における成果を必要とする。すなわち、直接の成果、価値への取り組み、人材の育成である。これらすべてにおいて成果をあげなければ、組織は腐りやがて死ぬ。


 クバノ氏は、マシタ氏の反論に聞く耳を持たなかった。さらに、反省がないと翌日もマシタ氏を呼び出した。執拗。粘着。「上司への報告が足りませんでした。以後気をつけます」とマシタ氏が言うまで、会議室に拘束した。人事部長というのは、案外ヒマなのだw

 普通の会社なら、上司と部下の間の情報共有うんぬんの話は、現場の当事者同士で行われる。人事部長が出てくるなど、聞いたことがない。

 しかしウィルコムでは、上司の嘘を正当化し、部下へ圧力をかける役割として、人事部長のすばやい登場が機能するようだった… 



 マシタ氏をやりこめて自席へ戻ったクバノ氏は、マシタ氏の発言で気になることがあった。
 社員1人1人に残業時間の上限値を定めて残業規制するウィルコムのやり方は、違法性が高く、2001年の厚生労働省の通達で明確に禁止されているという。


 調べると、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」という通達が見つかった。その中に、こんな文章があった。


「労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。」−−2.(3)ウより。

「また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。 」−−2.(3)ウより。



 それはまるで、ウィルコムの残業規制手段を、違法にするために存在するかのような通達であった。



 しかし、とクバノ氏は思う。そ・ん・な・こ・と・は・わ・か・っ・て・い・る。
 残業の上限値はあくまで「目標」に過ぎず規制ではない。残業した分は申告するよう指示も出している。

 ただ、「目標」の値をどのように解釈するかは社員の自由だ。社員が自主的に上限値以上の残業を申告しないならば、違法ではない。実際に申告しづらいような社風だったとしても、それは証明しづらいだろう。よって、違法にならない。うるさい社員がいたら圧力をかければいい



 そこまで考えて、クバノ氏はおもむろに、ため息をついた。
 こんなこと、やりたくてやっているわけじゃない、と、ふと思ったのだ。


 だが一方で、職権での圧力や、社員のプライバシーを自由に覗くことに対し、趣味的な感情を抱いてないかというと、自分でもよくわからなくなっていた…


(2010年6月8日〜17日分まで掲載)