予告された倒産の記録 その19

■ 虎の威を借る活躍


 イーモバイルのCMではサルが100万ユーザー突破の歌を歌い、
 ウィルコムの職場では見ザル聞かザル言わザルが空目空耳しながら、
 ソフトバンクの禿ザルよ、早く、くたばってくれよと待ちわびていた。


 ドコモMVNOの水面下業務について、サイジ氏の他に、技術や端末調達、料金関連の整備をする人間が必要だと、テラダ氏は考えた。
(誰にやらせようか…)
 3G関連の知識や経験でみれば、マシタ氏が適任だった。
(あいつには…今、何やらせてたっけ?)
 ツミオ氏に訊くと、電子新聞サービスのリサーチだと言う。
(ああ、そうか… しかし、いつまでそんな無駄なことに手間ひまかけてるんだ…!
 マシタ氏を呼び出して、これまでの検討の報告を求めた。さっさと却下して、3Gをやらせよう


 マシタ氏は進捗の報告をしたが、テラダ氏の承認を求めるような内容は言わなかった。
 テラダ 「で、どうなんだ? すぐ儲かるのか? 100億くらい?」
 マシタ (あっちもこっちも100億か…) 「まだ白黒だせる時期ではありませんが、事業の可能性はあると思います」
 テラダ氏は、いらついた。 「いいから、やめろ!
 マシタ 「え?」
 テラダ 「電子新聞は可能性なし。そう判断した。やめろ!
 マシタ 「なぜですか?」
 テラダ 「あ? 俺がやめろといってるんだ!
 マシタ 「………」
 テラダ 「で、はどうすんだ?」
 マシタ 「次?」
 テラダ 「電子新聞はおわり。次はするんだ?」
 マシタ 「何といわれても…」
 テラダ 「ヒマなの?」
 マシタ氏は、勘づいた。ここで頷いてはいけない気がした。あります
 テラダ 「あ?」
 マシタ 「電子新聞をもう少しやります」
やめろっていってんだろ!!」 テラダ氏は声を荒げた。
 マシタ氏は無言でその場を去り、アサバラ氏のところへ向かった。「あのさあ、電子ペーパー部会のことなんだけど…」


 ブワウクの電子ペーパー部会に、マシタ氏は加わった。
 アサバラ氏が「社長指示」とか「NTTG」とか「100億」という言葉を使って、マシタ氏の稼働について上長のテラダ氏へ話を通した。

 頭ごなしの身勝手で理不尽なマネジメントをする管理職は、それが普通だと思いがち。非管理職のくせに社長の威光を振りかざし、馬鹿丁寧だが態度のでかいアサバラ氏を、テラダ氏は苦手にしていた。

 マシタ氏は3Gの仕事を嫌ではなかったが、テラダ氏の態度や考え方には疑問があった。アサバラ氏の虎の威を借る活躍で、電子新聞リサーチは継続となった。そうして、たかだか数十枚の企画書でNTTGから100億せしめようとする奇想天外プロジェクトも、のそりと、動き出したのだった。



■ お客様不在のカラク


 2008年11月初旬、次世代PHSのライバルとされるWiMAX事業を立ち上げ中のUQが、翌年2月の試験サービスを控え、MVNO向けの料金プランを発表した。  

 次世代PHSの料金は? エリア展開計画は? 端末は? 


 技術開発への未練と、人の良い性格で、長らく存在感をなくしていたサービス開発本部長のクロサワ氏が、テラダ氏と入れ替わるように、息を吹き返していた。 

 次世代PHSのデータ通信端末。便利なUSB型が世間の主流になりつつある中、電力供給の問題で、次世代PHSは古くさいPCカード(PCMCIA)型を選ばざるを得なかった。 

 このご時世に、PCカード型かよーーー……… 誰もが思った。な・ん・で・そ・う・な・る・の!?
 

【噂】 秋にソフトバンクが破綻するとか噂がでてますねー 大河ドラマの龍馬の死になぞらえて。毎度のこと。年中行事?  

 破綻しそーーーー………  でもしなあーーーい!! ヒャッハー!!! ヴァターシはWILLCOMとは違うのよっ!! 


 次世代PHSと現行PHSのデュアル・スマートフォン、データ通信端末。デュアルでなく次世代PHSのシングルタイプ。USB型。PCMCIA型。その他の企画端末。
 …何を、いつ頃だせるのか。端末スケジュールはしっちゃかめっちゃかの放置プレイ。 

 適切な時期にやるべきことをやらないと、後になって「できない理由」がどんどん増えてくる。あたかも、その「できない理由」は最初から存在していたかのように。

 バキンゼMtgが機能しないから。経営陣が投資計画を決めてくれないから。だから、現場リーダーは何も検討しないし提案しない。提案(進言)しようものなら上に睨まれる。ババを引く。貧乏くじ。例のウィルコム的サイクル。それに、技術的にもできない。

 協力会社が少ない。マイナーなPHSは技術者が少ない。今からやって少なくとも1年半はかかる。シングルタスクな感じ。ずっと前からある課題。分散環境、マルチタスク環境の準備をなぜしなかったのか? そんなこと、今更言われてもねえ


 とにかく、次世代PHSの試験サービスインまであと半年。
 たとえ古くさいPCカード型でも、用意しなければ。競争力? そんなのは贅沢だ!
 次世代PHSは技術課題も山積み。今、この未曽有の厳しい環境で、俺達にできることをやるんだ! できることを!


 明らかな準備不足で追い込まれた苦境。
 身の丈に合った「できることをやる」という美徳を持ち出して手遅れの悪あがき。
 
 まったく勉強しないで大学受験前夜になり、カンニングペーパーを作るような感じ。
 

 ドラッカーさん、一言ドウゾ → アクションプランなくしては、すべてが成り行き任せとなる。


 成り行きまかせ風まかせの苦境で、半年後に次世代PHS用のPCカードを生み出す。無駄な苦労だが困難は困難。その陣頭指揮をとって乗り切れるのは、開発経験豊富なクロサワ本部長しかいなかった。

 後日、PCカードが何とか形になった時。「あの厳しい状況でよくここまで間に合わせたものだ」と、ウィルコム管理職らは互いに誉めたたえ合った。 

 さらに後日、PHSと3Gのデュアル・スマートフォン「ハイブリッドW-ZERO3」の時も。「あれだけメーカーにやる気のない状況で、よく発売までこぎつけたものだ」と、一部の社員らは褒めたたえ合った
 

 稚拙な愚策や放置プレイで自らを痛めつけ(苦境に追い込み)、それを天災のように受け止めて被害者面し、成り行き任せでツギハギの形をこさえ、土壇場のプロセスを関係者同士で称賛する。


そんな端末、誰もいらないよーっ 


これぞ、お客様不在のカラクリ。(ヒャッハーーー!!!) 




 UQは、WiMAXMVNOに関心ある事業者向け説明会で、データ通信機器3種類(USB、PCカードExpressCard型)の準備、およびノートパソコン内蔵用の通信モジュールの開発状況など、着実な進捗を発表していた。


(2010年4月20日〜21日分まで掲載)