予告された倒産の記録 その28

■ うそホンキ


 NTTG側は、当初からアサバラ氏に対し、ブワウクの活動や事務局長の肩書きを褒めたてた。
 ブワウクの活動、といっても、何もない。設立時に集めた会員企業の数を、「すごいですねえ」「調整が大変でしょう」「責任ある仕事を任されて」と、あえて何度も褒めるくらいしかない。

 歯の浮くお世辞は、率直さを好む人には逆効果だが、虚栄心の強い人には効果的だ。
 アサバラ氏の食らいつき、というか、過剰な反応にNTTG側は内心驚いたのではないだろうか。アサバラ氏は1のお世辞を10にも20にも膨張させて、多少の苦労話をさも大袈裟に披露した。

 NTTGにとって、後処理の仕事なのだろう、とマシタ氏は思った。
 11月にウィルコムは稲盛さんを担ぎ出してNTTGのトップと出資交渉し、決裂した。その余波もある。断りの常套句「共同事業があれば…」を、誰も真に受けてないくせに、形ばかりでも動く人間が求められるから、組織は不思議だ。

 ただ断られた、では体面が保てない。経営陣が動いたのだから、少なくとも案件が生まれなければならない。それで下の者が動き、やっぱりダメでした、となれば、経営陣の体面が保たれる。断った側も、相応の礼儀をつくしたことになる。 な・ん・だ・そりゃーーーっ!! 

 ソレガ社会ヲ知ル大人ノ振舞イトイウモノジャ。(誰?)。やっかいなのは、大人物のトップが自らの体面をそのように意識しなくとも、部下が勝手に気をまわして余計な配慮をしてしまうケースが、多々あることである。

 もちろん、場合によっては真に「共同事業があれば」ということもあるだろう。今回は、有名企業間の巨額出資というケースであり、一般論ではない。また、キクガワ社長が大人物でないことも明白であり、まさに体面保持の儀式色が強かった。


 NTTGの経営企画部担当部長を相手に、アサバラ氏はまるで大物のように振舞った。ブワウク事務局長、といってもウィルコムでは課長ですらない。いや、肩書き云々より、彼の態度は似ていた。誰に? バキンゼのスズキ氏。アサバラ氏は「我々」という言葉をやたら連発し、社長代理のように振舞った。


 アサバラ氏が、あの不毛なバキンゼMtgで学んだこと。ハッタリのきかせ方。たぶん、彼なりに緊張した裏返しだったのだろう。が、よくNTTG側が怒らなかったものだ。クロマロ氏は沈黙していた。マシタ氏は、NTTGの厚化粧な笑顔から目をそらせた。


 ようやく遅れてやって来た電王堂タナカ氏が用意した資料は、表紙を抜いてたった1枚。
 そこには電王堂の役員と上級管理職の顔が、免許証写真のように並び、役職名が書いてあるだけ。しかし、表紙には「Eペーパー・ビジネス構想(仮)について」と書かれていた。

 タナカ氏は、顔写真を指差しながら、電王堂社内の力関係(パワーバランス)について話し出した。簡略すれば、デジタル事業に野心的な勢力が複数あり、主導者を決めるまでしばらく時間がかかるということだった。

 そうでしょうそうでしょう、とNTTG側は頷いた。お互い大きな組織ですからねえ。ではまた進捗あれば、そのとき改めて、ということにしましょうか。
 …それで、電子ペーパービジネスでNTTGから100億せしめるプロジェクトは、あっけなく終わった


 Mtgでクロマロ氏とマシタ氏は一言も喋らず。タナカ氏はその場をしのぎ切った! という表情。一人、アサバラ氏だけは、帰社途中やけに沈み込んでいた。まさか、あんなやり方で本気で100億取れると思っていたのか、とマシタ氏は思った。本気は大切だが、それにしたって…

 本気といえば、聞こえはいい。だが、カミカゼ特攻じみた思考停止は、決して「本気」ではない。玉砕の覚悟も、決して「本気」ではない正しい努力をしようという、強い意志と謙虚さの欠如でしかないのだが、安易な「本気」による正当化は、社風でもあり、本当にやっかいだった。


「本気だよ」「本気でやってました」「本気だったんですが…」といえば、皆黙る。それ以上追及されない。「本気」は便利な言葉。何度も使い、「本気」の本来の価値を貶める。本気で本気だと自分に思い込ませる。結果、仕事の具体的な進め方の議論や問題点はずっと放置される社風。


 うそホンキで、お客様も総務省も、自分の良心すら、騙すのだ! ああ…なんてタチが悪い… うそホンキと無自覚の演出。まっとうな努力って何?(努力してるけどなあ) これ、ウィルコムの社風なり。たぶん、他の倒産会社でもよくある社風ではないだろうか…



ウィルコムミーティング


 ブワウクの電子ペーパープロジェクトは、12月末までに形にならなければNTTGとの交渉打ち切りということで、事実上の終了。ブワウクの業務から自由になったマシタ氏を、不幸な子、ウィルコムミーティングが待っていた。


 10月にテラダ副本部長のサンドバッグ役として担当部長へ昇進したツミオ氏の後任に、オヒデ氏がアプリケーション担当のグループリーダー(GL)になっていた。オヒデ氏は、ウィルコムミーティングを担当していた。

 中途入社3年目のオヒデ氏は、ウィルコムミーティングに何の思い入れもなかった。成功するとは思えないが、歯車に徹するのが自分の役目。他社の先行類似サービスが失敗した? この料金じゃ駄目? そんなこと、俺じゃなくテラダ副本部長へ直接言ってくれよ。俺は言わないけど。

 せっかくGL(課長級)へ昇進したんだ。ツミオさんだって、上司のサンドバッグに徹しているから担当部長になれた。ある大手メーカーでは、幹部の退社時に、部下がスリッパを脱がせて靴を履かせるとも聞く。俺だって、それくらいできる。それくらいはやるさ



 人は、他の者がどのように報われるかを見て、自らの態度と行動を決める。仕事よりも追従のうまい者が昇進するのであれば、組織そのものが、業績のあがらない追従の世界となる。by Drucker(たぶん)  



 また、ウィルコムでは、端末やサービスを誰かが一貫して(責任もって)面倒見るということがなかった。リリースし、たらい回し。分業制だが、丸投げのコミュニケーションなし。改善の権限もなし。すると、何が起きるか?

 失敗サービスの不毛な業務をたらい回しにすると、関わった社員は自分の仕事なので、その失敗ぶりを甘やかす。改善の意欲があったとしても、上司の顔色を伺い、ひっこめる。割り切って淡々とやる。そうして、失敗は検証されず、共犯者じみた集団意識でもって、蓋をされる。

 さらに、与えられた仕事を淡々とこなせば、成果を出さずとも評価される。D4や03で大失敗したにもかかわらず、スミジ氏はデータ通信企画室長へ昇進した。大きな成果を出したにもかかわらず、ヤツルギ前社長は更迭された。成果はむしろ凶。歯車に徹し黙ってやるのが吉


 最初からボロボロにせよ、ウィルコムミーティングの一応のリリースはオヒデ氏がやった。後を誰に引き継がせようか。ツミオ氏とオヒデ氏は、マシタ氏が適当と考えた。電子新聞やブワウクとかやってるようだが、よくわからない。きっとヒマだろう。

 テラダ氏もそれでいいと言った。マシタ氏は前にドコモMVNOの業務を断った。ブワウクの業務がなくなったならヒマだろう。電子新聞の件も何の成果も出てこない。ウィルコムミーティングでもやらせておけ。

 ツミオ氏とオヒデ氏はマシタ氏に質問した「電子新聞の進捗は?」。答えに詰まったところでウィルコムミーティングの業務を指示する作戦だったが、当てが外れた。10月に大手新聞社とコラボして地下鉄駅構内での実証実験を始めました。報告したと思いますが… 

 それと、別の大手新聞社と、03やD4端末へ電子新聞コンテンツを配信するソフトウェア開発の話も進めています。ほかには、新聞社の全国紙、ブロック紙、県紙数社とコンタクトがとれ、共同事業のパイプ作りをしています。…ええ、忙しいですね。いくらでもやることがあります。

 それでも、オヒデ氏はウィルコムミーティングの話をした。


「これはオヒデさんが思い入れがあって立ち上げたんじゃないですか? 成功させるまで面倒見たいんじゃないですか?」とマシタ氏。
「いや、とくに、そういうわけでは…」とオヒデ氏。


 マシタ氏は断らなかった。が、疑問を投げた「正直に言って、ウィルコムミーティングは失敗だと私は思っています。そういう人間にやらせていいのですか?どうしてもというなら、操作性と料金体系にメスを入れられますか? それができるなら多少はやりようがあるかもしれません」 

「もちろん提案はしてもらって構わないが…」とツミオ氏は言った。が、考えた。このマシタというのは、テラダさんの指示も断るような、組織秩序を乱す男だ。それに、ウィルコムミーティングはもう予算がないし、良い提案でも抜本的な変更は実現しないだろう。

 リリースしたばかりだが、すでに後処理の業務なのだ。そりゃ、金をかけず多少のプロモーションはする。ただそれだけだ。焼け石に水でフェードアウト。そういう業務であることがわかってないマシタ氏にやらせると、変なトラブルが起きるかもしれない。それはマズい。

 結局、ウィルコムミーティングは引き続きオヒデ氏の業務となった。


 オヒデ氏は自分で立ち上げたサービスだが、いい迷惑だ。サービスの失敗が自分の評価に影響しやしないだろうか… 俺のせいじゃないのに。手放したつもりのババが戻ってきたような気分だった。



 マシタ氏に指示しようとして断られたドコモMVNOの業務を、テラダ氏はオヒデ氏に指示した。
ウィルコムミーティング終わって、ヒマだろ?」と。
 ウィルコムミーティングにげんなりしていたオヒデ氏は、これ幸いと、ドコモMVNOの業務に取り組んだ…


(2010年5月16日〜19日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その27

■ 自分騙し


 サロ氏のように、一時的にせよ良心の呵責を感じればまだましで、騙しの仕事を、話術の腕の見せ所と、得意気になる者もいた。
 

 SIコンサルから転職で来たヒレバ氏は、威厳を装うための伊達メガネをいじりながら、2才年上の部下のナガラ氏に話す。もし明日、アラブの石油王がウィルコムのスポンサーになってくれたら、すべては順調にいく。その前提で話せばいいんだ。そうすれば何も騙したことにならない

 MVNOパートナー開拓担当のヒレバ氏とナガラ氏は、2.5GHz帯の免許剥奪リスクを避け会社の体面を守るため、MVNO候補企業に対し、次世代PHS事業立上げの順調さを大袈裟にアピールし、うまそうな幻の人参をぶらさげまくっていた。

 信じること。とヒレバ氏は続ける。俺達は与えられた仕事をやるのみ。この会社のやり方に文句があるなら今すぐ辞めればいい。経営陣は頑張ってる。俺達はそれを信じるしかない。明日、数百億の大金が降ってこないとは、誰にも言えない。


言えるでしょ。降ってこないよ
 ナガラ氏は思うが、黙ってる。
(それに、経営陣は何を頑張ってる? とてもそうは見えない)
 それを言えば、「君にはわからないことだ」と見下されて終りだ。ヒレバ氏は虚栄心の強い上司。少しおだてて、後は黙っているのが一番。


 法人営業の経験あるナガラ氏だが、口がうまい方でないことは自覚していた。謙虚にみて、ヒレバ氏の営業は新鮮で勉強になったので、完全におだてているわけでもなかったが、ふと気づくと、自分はこの上司におべっかを使ってるな、と感じることがしばしばあった。きっと、半分呆れてもいたからだろう。


 信じるは美徳。人はその言葉に頼りやすい。しかし、信じるは麻薬。思考停止の盲目を強いる。楽で、一見おだやかで、無自覚無責任
 数百億の金が、ある日突然降ってくることが事業計画のようになっている会社。そう思うと、あまりにばかばかしくて笑ってしまいそうだ。


 ヒレバ氏は、たまに前職のSIコンサル時代のことを話した。
 部下に仕事のまったくできない女性がいた。社長の愛人だった。仕事を教えたら彼女はノイローゼになった。社長との関係がこじれたらしい。ひどい職場だったが、管理職としての経験を積んだ。マネジメントには自信がある。

 なぜそれがマネジメントの自信になるのか。ナガラ氏は聞き流して話題を変えた。
 フレビズ社というところが、次世代PHSに興味を持っている。

【会社説明】「フレビズ社」……フレビズ・ネットワーク社。データセンターの会社。「XING WORLD」(別名x-i)という仮想空間ビジネスを企画。ドコモのMVNOも検討している。

 ヒレバ氏とナガラ氏は、道路を挟んで斜め向いビルにあるフレビズ社へ出かけた。なかなかの好感触。よし! 次世代PHSは順調、順調順調! ヒレバ氏は訪問先リストにフレビズ社を連ねた。リストの数が増えるほど、自分の仕事の成果としてアピールできるに違いなかった。


 営業には、厚化粧を施した商品をアピールする方法と、商品を売る人の、つまり、正直な人間性をアピールして信頼関係を築く方法がある。後者の営業ができる人は、貴重だと個人的に思う。


 正直な人間性とは何か? 何でもかんでも話すことじゃない。
 それでいて心の深みにある正直さの光を、相手に感じさせること。想像力を働かせ、誤解の予防に配慮する。その道の先を目指す人は、たぶん仕事が面白いのではなかろうか。



 正直に心をひらく、とか、部下を思いやるなんてどうやったらいいかわからない男、ブワウク事務局長のアサバラ氏は、タケミ氏と交代した部下のツヅキ氏に、早くもぶちキレていた。

 ヨーロッパ育ち、元プロテニスプレーヤーのツヅキ氏は自由人だ。語学力を買われてウミナガ氏と共に国内外を出張していた時はよかったが、デスクワークが大の苦手。というか、30才ながら新人のため、やったことないことは当然できない。

 女の部下には下心で厳しく、男の部下には権威を見せつけて厳しいアサバラ氏。どちらも尊敬されたい渇望の裏返しだが、失敗する。タケミ氏の前例があったせいもあるが、ツヅキ氏は、半ば直感でアサバラ氏を警戒するふしもあった。

 ツヅキ氏に対するアサバラ氏の態度 
 → 指示する。教えない。怒鳴る。けなす。呆れる。放置する。呆れる。呆れる。放置する。陰で「仕事もできないくせになんだあいつは!」と吹聴する。「日本語わからないんじゃないか?」と言う。

 アサバラ氏に対するツヅキ氏の態度 
 → 指示される。質問する。怒鳴られる。黙る。何か言われる。「はい」と言う。けなされる。黙る。何か言われる。黙る。怒鳴られる。黙る。ときどき「はい」と言う。言うだけ。 

 ほどなく、ツヅキ氏は自席でのようになった。タケミ氏はときおり気の毒そうな視線を送るが、自分のリハビリで精一杯だし、アサバラ氏の隣はババを引いたような、まるで罰ゲームの席だ。二度と近寄るのも嫌だった


 ブワウクのアシスタントは、もう1人、入社3年目のココムラ氏がいた。ココムラ氏は次推室の庶務業務なども抱えていたが、ツヅキ氏が岩になってしまったので、アサバラ氏はブワウクの雑務を全部ココムラ氏へ投げ出した。

 ココムラ氏は、次推室へ異動する前にいたルーティンワーク系の技術部門を、何の活力もない墓場だと思っていた。あそこに後少し長ければ転職サイトへ登録するところだった。二度と戻りたくない。念願の企画部門。どんな仕事、期待にも応えたいと思っていた。


 何でも来いというココムラ氏の入社3年目の覚悟に、アサバラ氏の容赦ない仕打ちの涎が垂れる、冬。
 しかし、ときすでに、ブワウクは(雑務の山に埋もれてはいたが)意味ある仕事を失いかけていた。

 有識者とのブワウクMtgは形骸化。アサバラ氏のスキル不足を補うはずだったコンサルのクロマロ氏は、ウィルコムへの出資を打診できる企業探しという新しい役目をキクガワ社長に貰い、バキンゼほどではないが、コンサル報酬をUPしていた。

 キクガワ氏とクロマロ氏のどちらが言い出したかは不明だが、クロマロ氏は経営陣を連れてインドへも飛んでいる。なぜ? インドの通信会社は金持ちだから。事業提携の適合性を二の次にして「金ありき」であちこち行っても、うまくいくわけがない。結局、単なる旅行で終わった。 


 ブワウクのもう1人のサポート役、電王堂のタナカ氏は、NTTGとのMtg用資料の作成に、頭を痛めていた。前回のMtgで、NTTGはウィルコムと電王堂のパイプに期待していた。ウィルコム経由で電王堂を動かし、電子ペーパービジネスで手を組みたいという感じだった。

 NTTGが考えなしに電王堂に直接打診して(どの部門に当たったか知らないが)、マズかったからウィルコム経由でって、そんな無茶な! けど、電王堂の上層部を動かせそうなニュアンスを、その場の勢いで匂わせてしまったのもタナカ氏だった。


 NTTGの経営企画部担当部長とのMtg
 ウィルコム側メンバーは、アサバラ氏、マシタ氏、クロマロ氏(コンサル)、タナカ氏(電王堂)。
 資料を作ってくる予定のタナカ氏は、遅刻していた…


(2010年5月9日〜16日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その26

不都合な真実



 未来を語る前に、今の現実を知らなければならない。現実からしかスタートできないからである。
 −−ピーター・ドラッカー



 カーライル主導の経営戦略会議で、「不都合な真実」という言葉が使われだした。アル・ゴア元米副大統領の映画で有名になった言葉。ウィルコム隠蔽体質を改め、問題解決の議論をするために、不都合な真実をさらけ出す必要がある。


 11月上旬に無料サービスを始めていたウィルコムミーティング。
 12月に入って有料になると、決して多くなかったアクセスログからユーザーの姿が消えた
 まったく見事な消え方で、データ分析担当者は市場の正直さに感心するほどだった。

 ウィルコムミーティングの何が悪かったか? 逆の質問の方がシンプルだ。何か1つでも長所があったか? 
 →残念ながら、皆無。これほど短所だらけも、珍しい。ウィルコムにいると、他社にはそうそうない珍体験ができる。

 類似の他社サービスがコケたという世間の悪印象。利用シーン不明瞭。料金高すぎ。操作性悪すぎ。やっつけ仕事が見え見え。情熱も誠実も無し。そのくせ、真摯な努力ゼロのサービスで金はしっかり取る欲深さ。どうせ失敗するから、わざとやってるのかと思うほどのていたらくぶり。


 即ち、逆のことをやれば良かった。使い易さ(操作性)を地道に徹底的に設計し、利用料金は安く(100〜300円が限度)、課金はMtgの主催者のみにし、利用シーンを明確にPRすれば、おそらくユーザーは納得し、運がよければ新しいニーズが生まれる。


 ウィルコムの組織やシステムが怠慢の高コスト体質でなく、お客様志向で採算が取れるよう、社内構造を組み立てる本気の姿勢さえあれば出来たこと。自社本位の極みで誕生してしまったのが、ウィルコムミーティングだった。

 しかし初めから期待されてないウィルコムミーティングが経営収支に与える影響は微々たるもの。その失敗の経緯は、組織の根深い問題を孕んでいたが、「不都合な真実」として伝えられることなく、またしても、お得意の「なかったこと」箱の中へ、放り込まれたのだった…



不都合な真実」で語られたこと。
 →とにかくもう借金で首が回りません! 次世代PHSなんてとても無理! だけど免許剥奪になれば、企業価値が地に落ちまっせ。


 他には? 
 →ありません!(経営数値を作る経営管理部に、日常的に都合よく数値を操作させているなんて、とても言えない)



不都合な真実」で、決して語られなかったが最も明らかになったこと。
 それは、ウィルコムという会社は、力づくでもない限り、どこまでも身勝手な保身根性にとらわれて、ごまかし続けるということ、でしかなかった… 



 ひょっとしたら、キクガワ氏の後、社長になったクボタ氏が就任1カ月と経たず事業再生ADRを行ったのも、経営数値の小細工を排するため、外部監視の強化が、理由の1つだったのかもしれない。

 クボタ氏は社長就任前から、社外アドバイザーとしてウィルコムの経営に関わっていたのだから、経営数値の胡散臭さに漠然と勘づいていたとしても、おかしくないだろう。これはあくまで推測だけれど。



■ 嘔吐


 三つの頭の1人、技術部門トップのチカ副社長が、ふらりとサービス開発本部へ現れた。テラダ副本部長と話し、シモム次推室長と話した。次世代PHS以外の、BWAライクな高速化技術について。

 新しい話ではない。PHSには搬送波や回線を束ねる方法で高速化させる技術がある。一部はマルチリンクとして実用化済。

【用語解説】「マルチリンク」……PHS回線を単純に束ね合わせ、速度を2倍、4倍、8倍、と増幅させる技術。アンテナ数や電力消費も倍になるのが課題。イメージとしては、ドラゴンボール界王拳みたいなもの、かな。 

 チカ氏はもともと、無線LAN技術と混血の次世代PHSよりも、純粋な現行PHSを高速化させる方向に強い関心があった。

 2.5GHz帯獲得のため、2007年は次世代PHSをPRしたが、2008年9月にはメディアの取材に対し、現行PHSの高速化を積極的に語っている。その内心は、次世代PHSとの共存、といいつつ、失敗した時の布石であり、PHS技術を純粋に後世へ残すための道作りだった。

 現行PHSの高速化にしても、金はかかるし、政治的技術的課題もある。はいそうですかと次世代PHSから鞍替えできるわけではないが、チカ氏とシモム氏のひそひそ話を側で聞いたサロ氏は、トイレの鏡に映った自分を、急に若白髪が増えたように感じた。


 次世代PHS事業立上げの実態をそれなりに知る者からみれば、現行PHSの高速化推進を公に唱えだしたチカ氏の言動は、次世代PHSへ引導を渡すに等しい
 やっぱり、本当に、もうどうしようもないのか… 次世代PHSは… 

 現行PHSの高速化。消費電力の問題等が解決したところで、WiMAXLTEのように何十メガにもなるわけじゃない。しかし、個人的にはサロ氏も、現行PHSの高速化でいいんじゃないの、と思っていた。


 最高(ベストエフォート)で○○メガ出ます、とカタログに載せる。いわゆるカタログスペックの競争。通信業界の悪しき慣習。実際は出もしないくせに。くだらないよなあ。 


 ベストエフォートで負けても、実際の速度をそこそこ確保できるNWにして、高速いらずのニーズに応えればいいだろ、PHSは。そう思っていたのだが、鏡の中のサロ氏の顔は、げっそりして見えた。


 なに、やつれてんだ、俺は… 上の人間や会社が何をしようと、次世代PHSがどうなろうと、まさか会社が潰れるわけじゃない、俺には関係ないこと… 


 この会社にしばらくいると、誰もが自分本位になる。守備範囲を小さくし、なるべく心安らかな会社員生活にしたい。無力は、権限と組織構造と社風のせい。適度に流されていればまあまあ順当に出世できそう。仕事に期待はしない。それがサラリーマン。誰だってそうしているはず。


 考えない。戦わない。受け入れる。諦める。割り切るのは、得意。他の会社でやっていける自信は、まったくない。ここにしがみつくしかない。それでも、十年以上いてもこの会社のやり方に、反吐が出そう、というか、やりきれないときが、ある… 


 今後、次世代PHSは、単なる誇大広告に成り下がる。世間の眼前に、幻の人参をぶら下げ、ウィルコムの経営陣や上級管理職は、自分の地位と報酬のためだけに、世間を騙し、お客様を騙し、社員を騙し… 


 嘘がばれたら退職金を抱えてトンズラ。「騙したわけじゃない。頑張ったが足りなかった。能力がなかった」と言い逃れ。恥をさらせば許されると思っているから、そもそも、まっとうな努力をしようとしない。真摯に。誠実に。徹底的に。その言葉の意味さえ、知らないのではないか。


 そういう人間たちから給料を貰う立場の自分に… いや、考えるな。俺は悪くない。俺のせいじゃない。騙すと思うからいけない。妄想。俺は何も聞いてない。すべては、予定通り、順調に進んでるんだ。


 想像しない。目先のことだけを見る。
 サロ氏は、目の前の鏡を見た。
 若白髪とやつれた顔は近頃の不摂生のせいだろう。まいったな、明日久々の合コンなのに。
 と思ったら、急に込み上げて、ヴエェェェェェ〜〜〜〜〜っと胃液を吐いた。



 きたねえなあ、俺。



 トイレには、サロ氏しかいなかった。吐いたせいでか、涙が出た。


(2010年5月8日〜9日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その25

■ スッパ抜き


 それは、世界的な電気通信機器メーカー、ロキア社端末の日本撤退と同時に始まった(ウィルコムは関係ないけど)……ウィルコムの耳(SIM)はドコモの耳(SIM)!!

 2008年12月1日、週末明け月曜日の朝。経済情報に強い読経新聞は、ウィルコムがドコモのMVNOになる、社内でも水面下の動きを、スッパ抜いた。


 次推室で広告戦略やマーケティングを担当するウミナガ氏は、朝刊をみて目をひんむいた。社内の陽炎のごとき噂はヨタ話だと思ってた。まさか本当だったとは! どうして、誰も、に、知らせなかったんだ?? こんなおいしいネタを!!
 

 最初からありえないと決めつけて見ればありえなく感じるが、新聞記事になってみると、ガセではないと直感した。思い起こせば、社内にそれらしき動きもあった。単に、自分がそれをどうでもいいと、見過ごしただけだった。まあ、よくあることだが。

 いずれにしても、「次世代提案型マーケティング・コミュニケーション・プランナー」(自称)として、知らなかった、では済まされない。どう済まないのかは、ともかく。ウミナガ氏は、一刻も早く会社へ飛んでいきたい気分だった…


 けだるい朝の職場。
 自席のPCを立ち上げていたタソモト氏は、小さくため息をついた。この間も、社長に呼ばれた会食にウィルコム社員のA氏(妙齢の女性)がいた。しかも、社長に言われて携帯のメアド交換までさせられてしまった。交換はしたが、まだ一度もメールを送ってない。 

 失礼なのかもしれないが、気が進まないのだ。A氏は、女優の羽田美智子似の美人だ。しかし、これでどうかなったら、キクガワ社長の紹介、ということになったりするのだろうか。なるんだろうなあ。キクガワさんはどういうつもりなのだろう… 

 1ヶ月間に2度の会食。NTTGから出向で来ているタソモト氏は、キクガワ氏に買い被られているように思えてならない。思い過ごしならいいが。PCを立上げ、会社のメールボックスにも彼女からのメールはなかったので、少しほっとした。 

 NTTGで一時期、副社長の鞄持ちをしたことがタソモト氏にはあった。上級幹部にパイプがある=出資交渉に役立つとキクガワ氏は思ってないか。タソモト氏を幹部候補生だと思ってないか。いくらA氏が美人でも、そういうしがらみはまっぴらごめんだった。

 携帯にも会社にもメールがないならAさんも俺に興味ないってことだろう。タソモト氏が都合よく考えていると、職場の入口がにわかに騒がしくなった。ウミナガ氏がばたばたとやって来た。新聞を机に叩きつける。「やられた!!」と、彼は叫んだ。
 

 ウミナガ氏は、今度は低い声で早口に言った「読経の記事! やりやがった」
 なにごとか、と周囲の視線が集まる。
奴ら嗅ぎまわってることは、俺の情報網にも引っかかってたわけだが、まさかスッパ抜くとは!」 

 素直に反応したのは新入社員のツヅキ氏。新聞を見て驚く「ウミナガさん、これ本当なんですか?」
 ウミ 「いま俺がそれを言ったら、自爆もしくは大炎上になること間違いなし!」
 ツヅキ 「…じゃあ、この記事、うそなんですか?」
 ウミ 「腐っても、天下の読経だ」
 ツヅキ 「はあ…」
 ウミ 「まあ諸事情あって俺は今まで黙っていたわけだが」
 ツヅキ 「スッパ抜きの動きも把握してたんですか?」
 ウミ 「ある程度はな
 ツヅキ 「全然しらなかった…」


 見ると、2人の側でタケミ氏が笑いを堪えているのに、タソモト氏は気づいた。

 休みがちだったタケミ氏は、ようやくブワウクの悪夢から逃れ、アサバラ氏からサロ氏のアシスタントになっていた。かわりに、広告予算カットで暇になったツヅキ氏が、ウミナガ氏からアサバラ氏のアシスタントになっていた。

 本当か嘘か、ウミナガ氏は常に世の中がひっくり返る爆弾の事実を口の中に貯め込んでいるらしいw そのダイナマイトパフォーマンスは時に仕事を混乱させるが、今朝は、タケミ氏を何カ月かぶりに笑わせていた。


 ウィルコムはその後、2年と経たずして、ドコモだけでなくソフトバンクMVNOになることを決定し、ハイブリ端末の増産を迷走させる… その仰天事実さえも、当時、ウミナガ氏の口の中を覗き込めば、すでに転がっていたかもしれないw 

 iPadソフトバンクから出るってことも、ウィルコムは個人向けPHSデータ通信事業をもう積極的にやらないってことも、すでに転がっていたかもしれない。 


 積極的にやらない、は、この業界では「力を注がない」「自然体」「廃れるまま放置」等々の意味表現があるが、要は撤退がタイムスケジュールに組み込まれたということ。思えば、2008年12月のドコモMVNOの頃から、コスト削減の1つとして存在したシナリオだったのだろう。

 個人向けデータ通信市場はもはやPHSでは戦えない。そりゃそうだ。3GのMVNO転換は正しい。だが一方で、NS、データ端末、ハイブリ等々出す。バーゲンセールをやったり。お客様のケアを最後まできちんとできればいいが、「更生」を盾になし崩しの負担を強いてジ・エンドとなりそうだ。



 選択と集中のできない経営は、やめるべき事業をやめず、切羽詰まって事切れる。
 終了予定の情報を隠して売り続け、お客様に迷惑をかけても「予定は未定」とうそぶいてへいちゃら。
 未定なので伝える必要なし。正式決定までの間に買わせたもん勝ち。
 継続しない前提の継続サービス。



 ドコモMVNOの読経新聞報道に対し、ウィルコムは2009年1月下旬まで、沈黙した。


(2010年5月2日〜8日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その24

■ 豆つぶやき(GW企画)


 GW中は更新できない時期があるのでどうなるかわかりませんが… 
【新緑晴天GW企画!】 →ウィルコムは真に後世に残す価値があるか?!(会社更生法適用の大義名分はいかに??)をお届けします。


 まず事実整理。
 会社更生法申請におけるウィルコム大義名分 → 「約450万ものユーザーがいる」「病院で使われている」「災害時に強い」
 ほかに、何かあったかな…? 感想・ご意見はいつでもお寄せ下さい。
 

「約450万ものユーザーがいる」というのは、数の話ではないかもしれないけれど、社会へ与える表面的な影響度をわかりやすくするためには、数字表現が便利なのだろう。 

 450万いたのは1年前。今は40万ほど減って約410万。かつては290万程度だったこともある。どこがデッドラインか。仮に他の理由がなかったとして、どこまで減れば「約XXX万ものユーザーがいる」が、公的資金投入(出資・融資)の理由にならなくなるのかは、興味深いところだ。 

 450万いた頃、1年前の2008年度末をベースにしても、450万分すべてが代替不可能というわけではないため、一概に「450万規模の影響度がある」とは、やはり言えない。大袈裟すぎる、と思った人も少なくないはず。 

 450万超えユーザー(だった頃)の内訳を見てみよう。個人契約(データカード+スマートフォン+その他端末)は248万。法人契約は207万。合計で約455万ユーザー。

 会社が清算しても、個人契約248万は、他キャリアへ移れる。不満はあるかもしれないが、哀しいかな、社会の通常運行に支障が出る→国の救済が必要、とはならず、代替の受け皿があるとみなされてしまう。よくて、料金的な配慮があるくらいだろうか。

 ドコモがPHSを止めた時と違い、PHS→3Gになるため番号は変わってしまうが、それはトーキー対応かしら。「お客様がおかけになった電話番号はXXX番へ変更しましたのでおかけ直しください」。メアドの変更は転送で。そこまでやってくれれば幸いだけれど。

 法人契約はどうだろう。代替可能だろうか? 内訳をみると、データカード43万、音声87万、テレメタ48万、ホールセール29万。ホールセールとは、帯域貸し、現行PHSMVNO提供のこと。

 法人データカード・音声利用といえ、個人利用と同じ考え方で、他キャリアへ代替可能。しかし一方、代替不可能という印象の使われ方あり。病院利用。いわゆる「院内PHS」と呼ばれるもの。 

 48万契約のテレメタも、侮れない。これはカーナビやエレベーターの遠隔制御などにPHSが使われており、代替となると、関連機器ごとごっそり変えないといけない。何年もかかる、と言われている。

【用語解説】「テレメタ」……テレメタリングのこと。計測器などのメーターを読み取ったり、機器の遠隔メンテナンスを行うシステム。専用のPHS端末を接続することで、機器のデータ収集やメンテナンスのセンター管理が可能。 

 現在の410万ユーザーのうち、「院内PHS」と「テレメタ」利用。合わせて50〜100万少々程度の規模でも、この2つが、ウィルコム救済の大義名分を支えていると思われる。 


 残りの大義名分「災害時に強い」。近年、東北地方の大地震でもPHSは他キャリアと比べてよくつながったと評判になった。

 つながった理由としては、PHSは3Gより基地局の数が多いため、1つが倒れても他の基地局でカバーできた、とか、ウィルコム災害対策基本法の指定会社ではなかったから、とか。 

 3Gと違い、カバーエリアを重複させて基地局を置けるマイクロセル技術の強み。但し、東北は他の地方と比べてPHS基地局が多いため、四国や九州の地震災害でも東北と同様の効果があるかは不明。 

 災害対策基本法は、NTTやKDDIが指定会社になっており、災害の救援、復旧、公共の秩序の維持のために、通信制御を義務づけられている。契約者数の多い事業者はすぐ輻輳するから大変だ。契約者数の少ないウィルコム輻輳もあまりなく、法的な義務もない。 


「テレメタ」「院内PHS」「災害に強い」 大義名分3兄弟。 


 あるいは、政治的陰謀説。大義名分3兄弟は、考え方次第でどうにでも何とかなる余分3兄弟に過ぎず、べつに救済しなくたって構わない。ただ、PHSは国産技術、とこだわる官僚がいる。PHSに肩入れする超大物財界人、稲盛和夫がいる。 

 もし稲盛さんがJALの救済(貧乏くじ)を引き受けてくれたら、ウィルコムは機構でご支援させて頂きますが(政権与党の誰かの台詞)… と、と、と、誰もがちょっとは想像する、そんな小芝居が、あっただろうか? 

 個人的な所感だが、小芝居だったとしても、すでに最初の脚本は捨てられ、役者たちのアドリブが暴走しているよう。暴走しながら落とし所を探す。脚本家は思う。なんでこんな風になっちまった? 世間の目は厳しい。出資は止めて融資に。いや、融資もこの際… 

 やめちまおうか? ウィルコム、いらないでしょ? 放置してつぶしちゃおーよ! と、そこで登場する大義名分3兄弟「国民が困る!!!」。脚本家「でも、君たちが必要なのはPHSであって、ウィルコムという会社じゃないよね?」。3兄弟「はっ!言われてみればっ!」 

「テレメタ」「院内PHS」「災害対策」のために必要なのは、あくまでもPHS技術のインフラ事業。残念ながら、ウィルコムという会社ではない。ウィルコムがなくなっても、かわりにもっとうまくやれる会社(京セラ?)があれば、そこがやればいいだけのことだろう。

 京セラさん、SuperPHS(構内PHS?)なるものを考えているようですしね。まだよくわかりませんが、「テレメタ」や「院内PHS」の代替になったりするのでしょうか。


 はてさて… 今のウィルコムという会社に、真に後世に残す価値があるのか… 

 
 まとめ→「テレメタ」「院内PHS」「災害対策」のためPHSインフラは必要(か?)。しかしこれだけでは、おそらくどんなに絞ってもNW維持費すら稼げず、事業として自立できなさそうだが… 感想・ご意見、お寄せ下さい! 



■ お便り紹介


楽しく拝見させていただいています。この会社がどこにいくのか興味があります。引き続きがんばってください。

ツイート一通り見ました。こんなんじゃダメというか、全部代替ソリューションが有るものばかりでどうやって生き残ろうと?という感想しか出ませんね。残念ですが、社会的使命を終えたということなのでしょう。 

内容に強い衝撃を受けました。停滞具合が競合他社の状況でどうしようもなくなった2009年ではなく2008年からすでに末期的状態だったのは驚くばかりです。

それにしてもマツケン社長の3年間ってなんだったんでしょうね。何がしたいのか最初から最後までさーっぱりわかりませんでした。 

後からならなんでも言えるだけかもしれませんがPHSがやるべきことは高性能端末や次世代PHSではなく新基準での人口カバー率100%とW−SIMの徹底した小型化、省電力化、速度より感度の高性能化であらゆるものに容易に組み込めるようにすべきだったのでしょう。

このアカウント、最近知り早速リストにフォローしました。私、前社員です。よくぞやっていただきました。これからも応援しています。

私は・・・中の人です。一体いつまで残業規制(という名のサビ残)を続ければいいのか、絶望するばかりです。いろいろと大変かもしれませんがこれからも頑張ってつぶやいてください。応援してますよ!

社員です。次世代関係でもかかわっていた時期があったので、笑えないけど笑っちゃうエピソードばかりでした。この先のツイートも楽しみにしています。

(退任した久保田社長について)社内では「就任時に倒産することも織り込み済みだったんじゃないか」なんて声もありましたが、それが規定路線だったら倒産に関しては素人の久保田さんを敢えて社長にする必要はなかっただろうと。

管財人と裁判所宛にサビ残の実態を伝える文章を従業員代表の何人かが連名で出せば大抵は改善します。更正会社の社員って強いんです。元経験者w RT 私は・・・中の人です。一体いつまで残業規制(という名のサビ残)を続ければいいのか、


【質問】 僕はウィルコムの、自律分散や上りの速さ(他社と比較したときに)など、3Gには真似できない技術を好きなんだと思います。これは現存のウィルコムでなくとも持続発展可能なものなんでしょうか?

【質問への返事】 自律分散はPHS以外にないと思います。基地局を自由設置できるメリット等あるのですが、ハンドオーバー遅延等デメリットもあり、3G並みを目指して独自技術を積み上げたのがPHSでした。他の無線技術が自律分散を採用しないのは、周波数利用効率の悪さ等もあるでしょうか。

 次世代PHSの上りの速さを規格できたのは、ほぼウィルコムの独壇場だったためです。こちらは他技術でもHSPAやLTEは次世代PHSと同等以上の規格ですね。帯域幅の割当て等によって規格速度をどれくらい実現できるかは、今後次第といったところですが… 

(今後PHSが残るとして)PHSのNWノウハウや技術者は、今はウィルコムという箱の中にあるわけですが、箱がボロボロなのでもう少しマシな箱へ中身を移し替えれば、穴だらけの箱を臨時でふさぐためにお札を貼らなくて済みます、かね。 


(おまけ) 泣けます。スティーブ・ジョブズの感動スピーチ→http://sago.livedoor.biz/archives/50251034.html


(2010年4月28日〜5月2日分まで掲載)

予告された倒産の記録 その23

■ 3Rプロジェクト


 2008年11月下旬。
 キクガワ社長は、さらに徹底したコスト削減施策の「光の道」を、社内に示した。
 そのウィルコム的「光の道」は、3R(サン・アール)プロジェクト、と名付けられていた。
 

 3Rは、リストラ(Restructuring)×3 ではなく、再生(Revaival)、大改革(Revolution)、生まれ変わる(Reborn)、の頭文字をとった。 

 しかし、社内HPに掲載された社長メッセージには、「…頭文字ですが、Rにどのような意味を持たすのかは、各自の自由にしてあります」とのこと。コントかブラックジョークか? 近い将来の、リストラのRだよ、と暗にほのめかした? 

 厳しいコスト削減施策のRなのに、曖昧で、各自の解釈自由なRなのであーる。RはリストラのR。表立っては言わないが「どのような意味を持たすのかは、各自の自由」だってw ウィルコム、社員に対してすらこんな感じwww

 だから、プレスリリース等の内容にしても、「どのような意味を持たすのかは、(お客様の)各自の自由」というスタンスで、有言不実行でも平然としているのだろう。 


 ちと、言葉遊びで、盛り上がってしまったが… 社長メッセージのつづき。



 3Rは、ウィルコムを強い会社にしていくための社内プロジェクト、という名目だ。

 目指すものは次の2つ。<利益確保に向けた大幅なコスト削減> <抜本的な事業構造の改革> 

 社長メッセージは続く。


 …投資家(株主)は、企業の成長や将来性よりも、企業価値がゼロにならないこと(安全性)を強く求めています… 

(次世代PHSはもう止めようぜ、ってこと?) 


 …金融機関(銀行)は、返済計画の順守や、早期回収を優先するようになってきています… 

(当時、信頼される売上のない状況で、リファイナンス困難な1000億円以上もの借金がある事実を、ほとんどの社員は知らない。有価証券報告書をよーく読めば書いてあるが、普通は誰もそんなものを見ない)


 …当社は来年からWILLCOM COREを立ち上げていかねばなりません… 

(この2カ月後、会社は「WILLCOM CORE」という名前を残したまま、中身を入れ替えるという手段にでる。外見が「WILLCOM CORE」であれば、中身は何だっていい?) 

「ねえ、ママ、これ(CORE)なあーに?」。「ダメよっ、触っちゃいけません。そんなブキミなもの…」



 ウィルコムの(コスト削減的)「光の道」は続く。


 …ネットワーク保守修繕費、20%カット…  

 え・え・え・え・え〜〜〜??? 

(つまり、5台中1台の基地局は、放置するってこと?) 


 …人材派遣費、70%カット…

(派遣切りの始まり) 


 …社員の残業代、50%カット…

サービス残業の始まり) 


 …広告宣伝費、全額カット… 

 …販売促進費、50%カット… 


(おまけ) …経営陣・上級管理職の報酬、0%カット(現状維持)… 

(おまけ2) …従業員のスマイル、200%カット… 

(ラスト!) …お客様志向の姿勢や仕事の志、すでに100%カット済み(初めからなかったもよう)… 


 …必ず削減目標は達成してください! …そして最後に、いまこそ『経営12ヶ条』を思い出して下さい…



 経営12ヶ条… なんだっけ? 社員たちは首をひねる。

 その一、親(京セラ)からの借金は踏み倒せ! …いや違った。
 

 名前は知ってる。京都の神のにおいがする。たぶん京セラのHPに載ってる。ネット検索すれば出てくるはず。

 でも、あえて調べたりしないウィルコム社員たちは、もう、わかっているからだ。

 社長が示したいのは、中身なのではない、と。 

 京都の神、京セラ・KDDIウィルコム創業者、いわんや日本を代表する経営の神様、稲盛和夫の尊き理念「経営12ヶ条」という、錦の御旗を振りかざし、社員をなんとな〜く丸めこみたいだけ。

 キクガワ社長が、稲盛さんの影をそうして安易にちらつかすほどに、社員意識の中で、稲盛和夫の価値は貶められ、汚れていく

(また稲盛か… どれだけ偉いんだか…) 

 もし、「経営12ヶ条」が、真にウィルコムの理念であり、経営陣の心身に染み込んでいたなら、これまでツイートしたような事態には、ならなかっただろう。

 最高の手本の1つ、先生のもとにいながら、学ばない組織であったことが、残念でならない
 

【用語解説】 「経営の原点12ヶ条」……1.事業の目的・意義を明確にする。2.具体的な目標を立てる。 3.強烈な願望を心に抱く。 4.誰にも負けない努力をする。5.売り上げを最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える。 6.値決めは経営。7.経営は強い意志で決まる。8.燃える闘魂。 9.勇気をもって事にあたる。 10.常に創造的な仕事をする。11.思いやりの心で誠実に。 12.常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で経営する。 


【再掲】 11.思いやりの心で誠実に。 



 この3Rのコスト削減施策は問題だらけだが、中でもとりわけ、「ネットワーク保守修繕費20%カット」は、経営が苦しいからしょうがない、では済まされない、ゆゆしき問題ではあるまいか、と思う。 

 ネットワーク(NW)のコスト、「設備投資費」と「保守修繕費」の違い。→ 設備投資費はNWサービスをより良く向上させるためのもの。保守修繕費はすでにあるNW品質レベルを劣化させないためのもの。 

 NWの保守修繕費は、設備投資費ように多少の会社都合で削減できる類のコストだろうか?  もう他に削るところがない、というのならまだしも。 

 通信キャリアにとって、既存のNW品質を劣化させることは、たとえば、お客様が部屋を借りた後、家賃そのままで備え付けのエアコンが取り外されたり、風呂が使えなくなったりすることと同じ。

 雨風はしのげるから構わないでしょ? とは、ならないだろう。
 

 契約上の債務不履行や、信義誠実義務違反等の不法行為となるおそれがある。もし多くの声があがれば、立証の敷居も低くなり、損害賠償が発生する。NW保守修繕費は最後まで手をつけてはいけない聖域。経営陣の報酬をそのままにしながら保守修繕費をカットするなど、もってのほかだ

 既存の基地局メンテより、新しい基地局設置に金を回せば、○○台増設! と各方面にアピールでき、順調そうに見せかけられる。お客様に対してもそう。新規が大事。釣った魚にエサはやらない。すべて会社の身勝手なPRのため。 


 3Rの、社長メッセージの最後は、こう締めくくられている。

 …全員が経営マインドを持って業務を遂行していただきたいと思います… 

 経営マインド… 久々にドラッカーさんの言葉を借りたい。 



 経営陣が大金を懐にいれつつレイオフを行うことは、社会的にも道義的にも許されない。そのような行為が組織にもたらす憤りとしらけは、必ず高いつけとなって返ってくる。
 −− ピーター・ドラッカー




 そうして2008年11月は過ぎた。

 ウィルコムが倒産し、会社更生手続開始決定がされるまで、あと、444日

 

 週末明けの師走は、ウミナガ氏のパフォーマンスで始まった。せわしい朝を、迎えていた。




【news】ソフトバンク、次世代PHSXGP技術を放棄 中国方式に切り替えへとの報道(日経にも掲載) http://another.willcomnews.com/?eid=1029244

 参考にですが、XGPとTD-LTEの繋がりについて →「XGPフォーラムのプレスリリース」http://www.xgpforum.com/ja/newsletter/issue1/j_td.html

【news】[産経]ソフトバンク、中国方式PHS採用へ 支援のウィルコムが提供 http://www.sankeibiz.jp/business/news/100427/bsb1004271105007-n1.htm

【news所感】2.5GHz帯BWA技術は「次世代PHS」(XGP)から「次世代のPHS」(TDLTE)へ。どこかで見たような言葉遊び。 

 BWA免許はデータ通信専用だけど、音声もいいでしょ? 名前(外見)も似てるし、いいでしょ、総務省さん? という感じだろうか。まさか! 

 しかし、今回の噂のXGP→TDLTEは、権威筋の顔を立てつつ(あるいは国民の便益にはどうでもいい一部のメンツを皮肉りつつ)、中身をより良いものへ変えた。ように思われる。同じハゲでもキクガワさん→孫さん、のグローバル・バージョンアップw

【news】京セラのウィルコム会社更生に伴う損失計上は89億6100万円 http://www.kyocera.co.jp/ir/pdf/100427w.pdf  


(2010年4月26日〜28日分まで掲載) 

予告された倒産の記録 その22

■ 空目空耳のコンセンサス


「ハニービー」……まさに孤軍奮闘。売れ行き順調で、ハニービー2も出た。はきだめに鶴ならぬ、蜂。 

 ウィルコムの 泣きっ面に 蜂 (意味は違うけど)
 

フェリカサービス」……2008年度第4四半期に向け、対応端末とサービスを開発中。モバイルFeliCaは良いサービスだが、手間も金もかかる。今のウィルコムの立場なら、もっと他の優先仕事があるのでは? という社内の声も。 

 テラダ副本部長の判断で実施に。モバイルFeliCaがないから、ウィルコム端末はユーザーに選ばれないんです。アンケートでも、モバイルSuicaの要望が高かった。他社ケータイ並みの機能になって、初めて公平な競争ができるんです

 それが、2008年度初め頃のこと。
 隣のお兄ちゃん(他社ケータイ)みたいになりたい! というウィルコム少年の背伸び。
 背伸びしすぎて、足元がおろそかになった。 

 モバイルSuicaの件で、JR東日本へ企画提出の締切日を忘れるという、ボケた新入社員みたいな大ポカをやり、なんと、モバイルFeliCaサービスイン時に、モバイルSuicaができないことに! なんてこった。 

 しかも、モバイルSuicaが間に合わなくなった事実すら、しばらく放置された。 …え? …これって…だれが、悪い、の? …オレ? …いやあ …え? ほんとに、オレ? 

 何で報告に来ないんだ!!!!! テラダ氏の怒声が、秋の職場に響き渡った。たしかに担当者も悪い。だが、社員たちは思う。
(それは、あんただからだよ… それに、本当に報告なかったのかなあ? また部下のせいにしてるんじゃないの?)  

 これもまた、例の、成り行き任せの土壇場プロセスに、突入であった。



 ウィルコムゴールデンラズベリー賞候補。下には下が、まだあり…(ため息) 

【用語解説】「ゴールデンラズベリー賞」……毎年、最低の映画を選んで表彰するアメリカの賞。別名ラジー賞。 

ウィルコム・ミーティング」……もうわけわからん! なぜ大幅なコスト削減が必要な時期に、今更こんなユーザー不在のクソミソサービスをわざわざ始めたのか??(怒!!

 他社キャリアで先行した類似サービスが、ことごとく沈没したにもかかわらず。プッシュトークしかり。ハローメッセンジャーしかり。 

 プッシュトークはそれ自体面白いサービスだったが、料金設定で失敗した。 

 ドコモは一時期、プッシュトークを目玉サービス扱いで、CMはジャニーズのカトゥーンがデビューを飾り、多額の広告販促費を投入したが、失敗した。料金戦略でしくじると、どうにもならんという象徴的な例だった。 

 テレビ電話もそう。では後から安くすればいいかと言えばそうでもない。新しいライフスタイルを提案する類のサービスは、初めにぶち上げて、興味をなくされると、致命的。一発芸人よりひどい。プッシュトークは復活できなかった。後追いで登場したauハローメッセンジャーはやる気なし。


 他社の類似サービスを、ウィルコムはリサーチしたか? その上でウィルコムミーティングの実施を決めたか? …答えは言うまでもない。収支見込みも、販売計画すら、ない。ないないづくし。 


 ただ、技術的にできるから。後は、そもそもの発端に、トノシタ会長が関わっているからーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ
 水戸黄門の印籠「会長案件」ということで!

 トノシタ会長は何でこれをやりたいの? →担当者「さあ…俺に訊かれても…」「でも会長案件だから」。マジかいな?

 怪しげな、ひとり歩き気味(徘徊?)の印籠のご威光で、見直しタブー、転がるのみのウィルコムミーティング。
 けど誰も期待してないので、コスト削減の煽りは受け、課金システムがサービスインに間に合わず。アーメン。
 でもとりあえず出すしかないと転がるのであった。


 
「NS」……後に、WILLCOM NSとなる、WindowsCEベースのモバイル機器。手帳に挟んでブラウジング端末として使う(らしい)。企画担当者は2008年春には動き出していた。夏に、メーカー東立の幹部と、キクガワ社長がMtg。 

【会社説明】「東立」……日本を代表する電機メーカーの1つ。漫画「島耕作」に出てくるが、このツイートとは特に関係なし。 

(ぼてっとした板の端末を見せられて)
 キクガワ 「これは何かサービスと一緒にすれば、魅力が増すのでは? たとえば電子新聞、電子書籍とか?」
 東立 「なるほど。では、引き続き開発を進めたいと思います」
 

 この時点で、ウィルコムはNSの採用を決定したわけではなかった。MtgにはB&P部のイシヤマ部長や担当者も同席したが、キクガワ社長の意見は、いつもその場かぎり。すぐに忘れ去られ、端末の開発だけ進められるのであった… 


 採用の前提で、端末の開発を進める。社長は了承した! と、社長同席のMtgをやっただけで、儀式は済んだ、了承されたと、空目空耳のコンセンサスが出来上がる。寝技ごり押しの、うやむや戦法ウィルコム社内では、大変有効な戦法なのである。 


 社内で有効だと、そういう仕事のやり方を身につける。社外にも通用すると思う。だから交渉力がない。混乱を招く。世間一般とかけ離れた社風に浸り続けると、社会で通用しない人材になってしまう。 



 真摯さ、誠実さを欠いた企業。
 社会で通用しない人材を作り出す企業。
 身勝手な価値観を増大させる企業は、それだけで、後世に残す価値は、ないかもしれない。 




 晩秋の半月が、しらじらと照る夜。ウィルコム社員A氏(妙齢の女性)は、またもや、西麻布の別の小料理屋に、キクガワ社長といた。 


 ここも高そうなお店… 経費にしても、自腹にしても、キクガワさんて、幾らくらい貰ってるのかしら? コスト削減するなら、まず自分の報酬を、新入社員と同じくらいの額までカットすればいいのに。A氏が思っていると、誰かが現れた。またもや、タソモト氏だった。 

 タソモト氏は、明らかに戸惑っていた。ありありと、A氏には見て取れた。キクガワさんはどういうつもりなのだろう? タソモト氏とA氏はお互いを見てから、キクガワ氏の方へ目を向けた。 


 あっっっ!!


 キクガワ氏の頭部に反射した小料理屋の明かりが、2人の視界を白く、くらませた。



 これは…………… 光の道!?  


(2010年4月25日〜26日分まで掲載)