予告された倒産の記録 その22
■ 空目空耳のコンセンサス
「ハニービー」……まさに孤軍奮闘。売れ行き順調で、ハニービー2も出た。はきだめに鶴ならぬ、蜂。
ウィルコムの 泣きっ面に 蜂 (意味は違うけど)
「フェリカサービス」……2008年度第4四半期に向け、対応端末とサービスを開発中。モバイルFeliCaは良いサービスだが、手間も金もかかる。今のウィルコムの立場なら、もっと他の優先仕事があるのでは? という社内の声も。
テラダ副本部長の判断で実施に。モバイルFeliCaがないから、ウィルコム端末はユーザーに選ばれないんです。アンケートでも、モバイルSuicaの要望が高かった。他社ケータイ並みの機能になって、初めて公平な競争ができるんです。
それが、2008年度初め頃のこと。
隣のお兄ちゃん(他社ケータイ)みたいになりたい! というウィルコム少年の背伸び。
背伸びしすぎて、足元がおろそかになった。
モバイルSuicaの件で、JR東日本へ企画提出の締切日を忘れるという、ボケた新入社員みたいな大ポカをやり、なんと、モバイルFeliCaサービスイン時に、モバイルSuicaができないことに! なんてこった。
しかも、モバイルSuicaが間に合わなくなった事実すら、しばらく放置された。 …え? …これって…だれが、悪い、の? …オレ? …いやあ …え? ほんとに、オレ?
何で報告に来ないんだ!!!!! テラダ氏の怒声が、秋の職場に響き渡った。たしかに担当者も悪い。だが、社員たちは思う。
(それは、あんただからだよ… それに、本当に報告なかったのかなあ? また部下のせいにしてるんじゃないの?)
これもまた、例の、成り行き任せの土壇場プロセスに、突入であった。
ウィルコムのゴールデンラズベリー賞候補。下には下が、まだあり…(ため息)
【用語解説】「ゴールデンラズベリー賞」……毎年、最低の映画を選んで表彰するアメリカの賞。別名ラジー賞。
「ウィルコム・ミーティング」……もうわけわからん! なぜ大幅なコスト削減が必要な時期に、今更こんなユーザー不在のクソミソサービスをわざわざ始めたのか??(怒!!)
他社キャリアで先行した類似サービスが、ことごとく沈没したにもかかわらず。プッシュトークしかり。ハローメッセンジャーしかり。
プッシュトークはそれ自体面白いサービスだったが、料金設定で失敗した。
ドコモは一時期、プッシュトークを目玉サービス扱いで、CMはジャニーズのカトゥーンがデビューを飾り、多額の広告販促費を投入したが、失敗した。料金戦略でしくじると、どうにもならんという象徴的な例だった。
テレビ電話もそう。では後から安くすればいいかと言えばそうでもない。新しいライフスタイルを提案する類のサービスは、初めにぶち上げて、興味をなくされると、致命的。一発芸人よりひどい。プッシュトークは復活できなかった。後追いで登場したauのハローメッセンジャーはやる気なし。
他社の類似サービスを、ウィルコムはリサーチしたか? その上でウィルコムミーティングの実施を決めたか? …答えは言うまでもない。収支見込みも、販売計画すら、ない。ないないづくし。
ただ、技術的にできるから。後は、そもそもの発端に、トノシタ会長が関わっているからーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。
水戸黄門の印籠「会長案件」ということで!
トノシタ会長は何でこれをやりたいの? →担当者「さあ…俺に訊かれても…」「でも会長案件だから」。マジかいな?
怪しげな、ひとり歩き気味(徘徊?)の印籠のご威光で、見直しタブー、転がるのみのウィルコムミーティング。
けど誰も期待してないので、コスト削減の煽りは受け、課金システムがサービスインに間に合わず。アーメン。
でもとりあえず出すしかないと転がるのであった。
「NS」……後に、WILLCOM NSとなる、WindowsCEベースのモバイル機器。手帳に挟んでブラウジング端末として使う(らしい)。企画担当者は2008年春には動き出していた。夏に、メーカー東立の幹部と、キクガワ社長がMtg。
【会社説明】「東立」……日本を代表する電機メーカーの1つ。漫画「島耕作」に出てくるが、このツイートとは特に関係なし。
(ぼてっとした板の端末を見せられて)
キクガワ 「これは何かサービスと一緒にすれば、魅力が増すのでは? たとえば電子新聞、電子書籍とか?」
東立 「なるほど。では、引き続き開発を進めたいと思います」
この時点で、ウィルコムはNSの採用を決定したわけではなかった。MtgにはB&P部のイシヤマ部長や担当者も同席したが、キクガワ社長の意見は、いつもその場かぎり。すぐに忘れ去られ、端末の開発だけ進められるのであった…
採用の前提で、端末の開発を進める。社長は了承した! と、社長同席のMtgをやっただけで、儀式は済んだ、了承されたと、空目空耳のコンセンサスが出来上がる。寝技ごり押しの、うやむや戦法。ウィルコム社内では、大変有効な戦法なのである。
社内で有効だと、そういう仕事のやり方を身につける。社外にも通用すると思う。だから交渉力がない。混乱を招く。世間一般とかけ離れた社風に浸り続けると、社会で通用しない人材になってしまう。
真摯さ、誠実さを欠いた企業。
社会で通用しない人材を作り出す企業。
身勝手な価値観を増大させる企業は、それだけで、後世に残す価値は、ないかもしれない。
晩秋の半月が、しらじらと照る夜。ウィルコム社員A氏(妙齢の女性)は、またもや、西麻布の別の小料理屋に、キクガワ社長といた。
ここも高そうなお店… 経費にしても、自腹にしても、キクガワさんて、幾らくらい貰ってるのかしら? コスト削減するなら、まず自分の報酬を、新入社員と同じくらいの額までカットすればいいのに。A氏が思っていると、誰かが現れた。またもや、タソモト氏だった。
タソモト氏は、明らかに戸惑っていた。ありありと、A氏には見て取れた。キクガワさんはどういうつもりなのだろう? タソモト氏とA氏はお互いを見てから、キクガワ氏の方へ目を向けた。
あっっっ!!
キクガワ氏の頭部に反射した小料理屋の明かりが、2人の視界を白く、くらませた。
これは…………… 光の道!?
(2010年4月25日〜26日分まで掲載)