予告された倒産の記録 その21

■ 残業規制


 それまで、ウィルコムには残業時間の管理という概念がほとんどなかった。
 他社では、労働組合と会社が労使協定等を結び、月間や年間における残業時間の目安を定めるのが一般的だが、ウィルコムには労働組合がない。

 労働組合に代わる非管理職社員の代表も、機能していると言えず、実質、部署によっては残業時間のつけ放題。 

 残業時間がつけ放題だと、何が起こるか? 水増し申告はバレるとまずい。と、すると?


 答えは簡単 →だらだら仕事をするようになる。1時間でできることを、数時間かけてやるようになる。昼にできる社内Mtgをわざわざ夜にしたり
 

 すべての社員がそうではない。本当に忙しい社員もいる。
 ただ、管理職は、部下たちがゆる〜く仕事をしている、という漠然とした印象を持っていた。だから残業規制。今までは社風というか慣習的に甘やかしていただけ。 

 残業規制すると仕事に支障がでる? うそつけ! 業務時間中にぶらぶらせず、テキパキやればいいだろう。
 残業代がなくなって給料が減る? 会社の財布がピンチの時に、自分のことばかり考えるな!
 

 会社の財布がピンチの時に… 残業規制をしても管理職の給料は1円も減らない
 会社の財布をピンチにしたのは誰だ… そもそも管理職は高い報酬をもらっているくせに… 非管理職社員たちの声なき不満の声。 
 まったく、やってらんないよ… 
 社員たちの顔を、秋の三日月が青白く照らした夜…
 


 キクガワ社長は、飲み友達やウィルコム社員(妙齢の女性)とともに、西麻布の小料理屋にいた☆



 高そうなお店… これって、まさか経費で落としてるのかしら… 
 ウィルコム社員(妙齢の女性)A氏は、珍しく社長に呼ばれてついていった小料理屋で、社長の友人たちに適当に愛想を振りまいていた。 

 何のために連れて来られたのかは、聞いていなかった。ただ、ずっと前にも、同じようなことがあった。この後、誰かがここへ来るのだ。社長のお気に入りの、たぶん、独身の男性が… 

 A氏の予想は、当たった。しかし、彼女は驚いた。まさかその男性が、彼女の顔見知りとは思わなかったから。なぜ自分が呼ばれたのかよくわからない、と顔に書いてありそうな表情で現れたのは、NTTGから出向でウィルコムに来ている、タソモト氏だった…


 あっっっ! 


 小料理屋の明かりが、ハゲ頭に反射してA氏の目をくらませた…!



■ 失敗と大惨事の間、とりあえずやってる、思考停止の泥沼


 案件が多くなってきましたので、この辺でまとめます。 

 まず、全体的なもの。キーワードは「経営戦略会議」「出資交渉」「残業規制」「PR・広告・イベント関連」 

「経営戦略会議」……次世代PHSの戦略策定および現行PHSのテコ入れ会議。ウィルコムの泥沼体質に業を煮やした大株主カーライルの主導。 

「出資交渉」……上場断念。放漫経営・業績不振で提携先も見つからず。2008年11月には「京都の神」稲盛氏をもってNTTGと交渉したが実らず。 暗中模索。 

「残業規制」……経営戦略会議で打ち出された全社的なコスト削減施策の1つ。不法まがいの規制。社内にいっそうの歪みを生み出す。

「PR・広告・イベント関連」……コスト削減施策でまっ先に予算カット。担当していた社員はそろってヒマになった。


 次は次世代PHS関連。キーワードは「MVNO」「ブワウク」「地域連携」

MVNO」……業務システム、課金システム、他ネットワークとの接続など次世代PHS関連の設備投資費が捻出できないため事実上の崩壊。但し、電波利用の免許剥奪を避けるため、各方面へ隠蔽工作に走る。 

「ブワウク」……有識者を交えたブワウクMtgのどん詰まり。全社的コスト削減の煽りを受ける。マネーロンダリングまがいの会社化や、数十枚の企画書でNTTGから100億せしめる奇想天外プロジェクトをもくろむ。


 こうしてあらためてまとめてみると、あまりにひどい… ひどすぎるなこりゃ… 

 ウィルコムに、再建するだけの価値が本当にあるのか、後でつぶやきたい。 


「地域連携」……国や自治体の補助金を使って次世代PHS基地局を建てようという動き。旧郵政省出身のトノシタ会長の発案。各方面のパイプ作りと事業モデル作りが重要だが苦戦中。トノシタ会長がケーブルテレビ業界に人脈ある人を連れて来てウィルコム執行役員にしてみたり。


 三番目は現行PHS関連。キーワードは「次のスマートフォン」「電子新聞」「どこでもWi-Fi」「データ同期サービス」「モバイルコンテンツ」「ハニービー」、プラス(これまでは触れてなかったけれど)「フェリカサービス」「ウィルコムミーティング」「NS」

「次のスマートフォン」……03とD4の間、あるいは延長線上にあるものという社内調整優先の意味不明な概念。次世代PHSと現行PHSのデュアル端末を想定。財務悪化。経営危機。コスト削減勃発。 何が作れる? そもそも作るの? どうする? どうする? どうする!  

 失敗(03)と大惨事(D4)の間、あるいは延長線上にあるもの… まるで小説の題名のよう。「企画者失格」「自己中心で見栄を叫ぶ」「プライド炎上」「社内モラルの耐えられない軽さ」 

 もう4つほどwwww 「失われた顧客を求めて」「ユーザーの声を聴け」「会社の終りと責任逃れのワンダーランド」「予告された倒産の記録」


「電子新聞」……次世代PHSや現行PHSインフラで電子新聞サービスの可能性検討。新聞社やメーカーとのパイプ作り。ブワウク案件で、電子ペーパー端末による100億のプラットフォーム事業モデルもNTTG向けに探る。

どこでもWi-Fi」……東京ゲームショウでの発表後、競合他社に先手を打たれつつ、来年(2009年春)の発売に向けて開発を進める。 

「データ同期サービス」……9月にロキア社が法人向け提供の撤退をリリース。ウィルコムスマートフォンに使われているが…  

「モバイルコンテンツ」……他社のように厳しい審査を合格して掲載されたわけではない、公式サイト。とりあえずやってる感が滲みでている、意味なし趣味的コンテンツの群れ。 


 戦略も、まともな企画もなく、ウィルコム単に来るもの拒まず状態のため、他の通信キャリアで落とされた三流レベルのCP(コンテンツ・プロバイダ)にとっては、「通信キャリアの公式コンテンツに採用された!」というハクを得られ、世間にPRできる場所。なんだそりゃ?

 本気の苦労せずコンテンツの数を増やせてウィルコム担当者満足。ハクを得られてCP満足
 お客様は? 公式コンテンツなので試しに使ってみた… レベル低すぎ… サイトも使いづらい… 騙されたっ、パケット損したっ、もう二度と使わないっ。 


 モバイルコンテンツの現場リーダーであるテラダ副本部長は、この仕事がなくなると「データ通信ARPU向上」のために何をやっていいかわからない。干されたみたいにも見える。だからやる。これをやれと、上からも言われた。

 時代の流れ、ウィルコムユーザーの属性(2台目利用が多い)などから、見込みなし、焼け石に水、間違った方向への努力にすぎないことはわかっていたが、そこはほら、見ザル聞カザル言ワザルで… キセキを信じて、ガンバロウ!(俺がヒマに見られないために) 


 モバイルコンテンツの担当者たちは、粛々と、淡々と、流れの中で働く。新コンテンツや企画ページができる度、細かい画面チェック作業に多大な人件費と労働力が費やされる。流れがどこへ向かっているのか、気にするのは自分の業務範囲外だし、正直しんどい。 

 日々、自分にできることをやる。どこかで「それ、無駄では?」と聞こえてきたら、そうかもしれないけれどヒドイと思う。私がやってることなのに。何でそんなことをいわれなくちゃいけないの? 指示されたことをやってるだけ。組織ってそういうものでしょ?  


 ウィルコムのモバイルコンテンツ。経営戦略会議を体よく締め出されたテラダ副本部長のヒマ潰し業務は、それゆえテラダ氏の妙な執着を生み、担当者の視野を狭め変なプライドを醸成し、思考停止の泥沼にいっそう嵌りつつあった…



【news】WILLCOM管財人代理の久保田前社長が退任」(2010年4月23日)
http://k-tai.impress.co.jp/docs/news/20100423_363282.html  

 久保田氏については、後につぶやく機会もあるかと思います。一つだけ、忘れないよう、メモしておきます。 


 その存在すら封印され、ごく一部の社員しか知らない、事業再生プラン。
 通称「32本のプロジェクト


 なぜ、無視され、闇に葬り去られたのか? 



【news】不払い残業代ほぼ2年分 アイシン支払い」(2010年4月24日)
http://www.asahi.com/special/08016/NGY201004240002.html

 →不払い残業代。労基署さん! ウィルコムにもありますよ!! たんまりと!!! 


(2010年4月22日〜25日分まで掲載)