予告された倒産の記録 その23
■ 3Rプロジェクト
2008年11月下旬。
キクガワ社長は、さらに徹底したコスト削減施策の「光の道」を、社内に示した。
そのウィルコム的「光の道」は、3R(サン・アール)プロジェクト、と名付けられていた。
3Rは、リストラ(Restructuring)×3 ではなく、再生(Revaival)、大改革(Revolution)、生まれ変わる(Reborn)、の頭文字をとった。
しかし、社内HPに掲載された社長メッセージには、「…頭文字ですが、Rにどのような意味を持たすのかは、各自の自由にしてあります」とのこと。コントかブラックジョークか? 近い将来の、リストラのRだよ、と暗にほのめかした?
厳しいコスト削減施策のRなのに、曖昧で、各自の解釈自由なRなのであーる。RはリストラのR。表立っては言わないが「どのような意味を持たすのかは、各自の自由」だってw ウィルコム、社員に対してすらこんな感じwww
だから、プレスリリース等の内容にしても、「どのような意味を持たすのかは、(お客様の)各自の自由」というスタンスで、有言不実行でも平然としているのだろう。
ちと、言葉遊びで、盛り上がってしまったが… 社長メッセージのつづき。
3Rは、ウィルコムを強い会社にしていくための社内プロジェクト、という名目だ。
目指すものは次の2つ。<利益確保に向けた大幅なコスト削減> <抜本的な事業構造の改革>
社長メッセージは続く。
…投資家(株主)は、企業の成長や将来性よりも、企業価値がゼロにならないこと(安全性)を強く求めています…
(次世代PHSはもう止めようぜ、ってこと?)
…金融機関(銀行)は、返済計画の順守や、早期回収を優先するようになってきています…
(当時、信頼される売上のない状況で、リファイナンス困難な1000億円以上もの借金がある事実を、ほとんどの社員は知らない。有価証券報告書をよーく読めば書いてあるが、普通は誰もそんなものを見ない)
…当社は来年からWILLCOM COREを立ち上げていかねばなりません…
(この2カ月後、会社は「WILLCOM CORE」という名前を残したまま、中身を入れ替えるという手段にでる。外見が「WILLCOM CORE」であれば、中身は何だっていい?)
「ねえ、ママ、これ(CORE)なあーに?」。「ダメよっ、触っちゃいけません。そんなブキミなもの…」
ウィルコムの(コスト削減的)「光の道」は続く。
…ネットワーク保守修繕費、20%カット…
え・え・え・え・え〜〜〜???
(つまり、5台中1台の基地局は、放置するってこと?)
…人材派遣費、70%カット…
(派遣切りの始まり)
…社員の残業代、50%カット…
(サービス残業の始まり)
…広告宣伝費、全額カット…
…販売促進費、50%カット…
(おまけ) …経営陣・上級管理職の報酬、0%カット(現状維持)…
(おまけ2) …従業員のスマイル、200%カット…
(ラスト!) …お客様志向の姿勢や仕事の志、すでに100%カット済み(初めからなかったもよう)…
…必ず削減目標は達成してください! …そして最後に、いまこそ『経営12ヶ条』を思い出して下さい…
経営12ヶ条… なんだっけ? 社員たちは首をひねる。
その一、親(京セラ)からの借金は踏み倒せ! …いや違った。
名前は知ってる。京都の神のにおいがする。たぶん京セラのHPに載ってる。ネット検索すれば出てくるはず。
でも、あえて調べたりしない。ウィルコム社員たちは、もう、わかっているからだ。
社長が示したいのは、中身なのではない、と。
京都の神、京セラ・KDDI・ウィルコム創業者、いわんや日本を代表する経営の神様、稲盛和夫の尊き理念「経営12ヶ条」という、錦の御旗を振りかざし、社員をなんとな〜く丸めこみたいだけ。
キクガワ社長が、稲盛さんの影をそうして安易にちらつかすほどに、社員意識の中で、稲盛和夫の価値は貶められ、汚れていく。
(また稲盛か… どれだけ偉いんだか…)
もし、「経営12ヶ条」が、真にウィルコムの理念であり、経営陣の心身に染み込んでいたなら、これまでツイートしたような事態には、ならなかっただろう。
最高の手本の1つ、先生のもとにいながら、学ばない組織であったことが、残念でならない。
【用語解説】 「経営の原点12ヶ条」……1.事業の目的・意義を明確にする。2.具体的な目標を立てる。 3.強烈な願望を心に抱く。 4.誰にも負けない努力をする。5.売り上げを最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える。 6.値決めは経営。7.経営は強い意志で決まる。8.燃える闘魂。 9.勇気をもって事にあたる。 10.常に創造的な仕事をする。11.思いやりの心で誠実に。 12.常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で経営する。
【再掲】 11.思いやりの心で誠実に。
この3Rのコスト削減施策は問題だらけだが、中でもとりわけ、「ネットワーク保守修繕費20%カット」は、経営が苦しいからしょうがない、では済まされない、ゆゆしき問題ではあるまいか、と思う。
ネットワーク(NW)のコスト、「設備投資費」と「保守修繕費」の違い。→ 設備投資費はNWサービスをより良く向上させるためのもの。保守修繕費はすでにあるNW品質レベルを劣化させないためのもの。
NWの保守修繕費は、設備投資費ように多少の会社都合で削減できる類のコストだろうか? もう他に削るところがない、というのならまだしも。
通信キャリアにとって、既存のNW品質を劣化させることは、たとえば、お客様が部屋を借りた後、家賃そのままで備え付けのエアコンが取り外されたり、風呂が使えなくなったりすることと同じ。
雨風はしのげるから構わないでしょ? とは、ならないだろう。
契約上の債務不履行や、信義誠実義務違反等の不法行為となるおそれがある。もし多くの声があがれば、立証の敷居も低くなり、損害賠償が発生する。NW保守修繕費は最後まで手をつけてはいけない聖域。経営陣の報酬をそのままにしながら保守修繕費をカットするなど、もってのほかだ。
既存の基地局メンテより、新しい基地局設置に金を回せば、○○台増設! と各方面にアピールでき、順調そうに見せかけられる。お客様に対してもそう。新規が大事。釣った魚にエサはやらない。すべて会社の身勝手なPRのため。
3Rの、社長メッセージの最後は、こう締めくくられている。
…全員が経営マインドを持って業務を遂行していただきたいと思います…
経営マインド… 久々にドラッカーさんの言葉を借りたい。
経営陣が大金を懐にいれつつレイオフを行うことは、社会的にも道義的にも許されない。そのような行為が組織にもたらす憤りとしらけは、必ず高いつけとなって返ってくる。
−− ピーター・ドラッカー
そうして2008年11月は過ぎた。
ウィルコムが倒産し、会社更生手続開始決定がされるまで、あと、444日…
週末明けの師走は、ウミナガ氏のパフォーマンスで始まった。せわしい朝を、迎えていた。
【news】ソフトバンク、次世代PHSでXGP技術を放棄 中国方式に切り替えへとの報道(日経にも掲載) http://another.willcomnews.com/?eid=1029244
参考にですが、XGPとTD-LTEの繋がりについて →「XGPフォーラムのプレスリリース」http://www.xgpforum.com/ja/newsletter/issue1/j_td.html
【news】[産経]ソフトバンク、中国方式PHS採用へ 支援のウィルコムが提供 http://www.sankeibiz.jp/business/news/100427/bsb1004271105007-n1.htm
【news所感】2.5GHz帯BWA技術は「次世代PHS」(XGP)から「次世代のPHS」(TDLTE)へ。どこかで見たような言葉遊び。
BWA免許はデータ通信専用だけど、音声もいいでしょ? 名前(外見)も似てるし、いいでしょ、総務省さん? という感じだろうか。まさか!
しかし、今回の噂のXGP→TDLTEは、権威筋の顔を立てつつ(あるいは国民の便益にはどうでもいい一部のメンツを皮肉りつつ)、中身をより良いものへ変えた。ように思われる。同じハゲでもキクガワさん→孫さん、のグローバル・バージョンアップw
【news】京セラのウィルコム会社更生に伴う損失計上は89億6100万円 http://www.kyocera.co.jp/ir/pdf/100427w.pdf
(2010年4月26日〜28日分まで掲載)