予告された倒産の記録 その2
前社長のキクガワ氏(2009年8月下旬に社長退任)は、ウィルコム倒産の主犯。
あちこちで言われているが、たしかにそうだろう。前々社長のヤツルギ氏との対比もある。
しかし、A級戦犯は社長の指示を軽んじた一部の現場リーダー達かもしれない…
社長の指示を軽んじ続け、暴走した中間管理職の実態を、多くの社員が目の当たりにしている。しかし、そうした中間管理職(現場リーダー)に権限を与え続けたのは、組織上やはり経営者の責任だ。
クロサワ本部長は、ひょっとしたら部下のテラダ副本部長をクビにしたかったかもしれない。少なくとも、会社のことを考えればクビにすべきということはわかっていたかもしれない。
わかっていながら、その事実から目をそらせた。たとえ自分の部下であっても、チカ副社長のシンパであるテラダ氏に対する人事権は、あってないようなものだった。それに、ドロドロした揉め事は、できれば起こしたくない。
それに… クロサワ氏は思った。私はどうしてここ(サービス開発本部本部長)にいるんだろう… 技術開発畑ひとすじの私に、ここで何をやれというのだろう…
クロサワ氏は、毎日、机の上のノートパソコンを、ぼんやり眺め続けた。
そんなクロサワ本部長に対し、テラダ副本部長は自ら話しかけることも、顔を向けることさえ滅多にしなかった。
そっとしておいた、というより、相手にしていなかった。サービス開発本部内で唯一の上司であるクロサワ氏が、腑抜けのようになっているのは、テラダ氏には都合がよかった。
うまくすれば、俺のやりたいようにできる! テラダ氏は思った。これは間違いなく出世のチャンスだ。かつて、テラダ氏は同期の中で出世が遅れていた時期があり、長いあいだ悔しい思いを抱いていた。
ちなみに、会社には部長課長などの役職名の他、BANDという等級制度があった。BAND1〜3は非管理職、4は課長級、5は部長級、6は本部長以上であり、年収は4が800万〜、5が1200万〜、6が1500万〜、というのが基準値とされていた。
取締役サービス開発本部長のクロサワ氏はBAND6。サービス開発本部副本部長兼サービス計画部長のテラダ氏はBAND5。
なのだろうと、社員たちは思っていた。
テラダ氏が部長を務めるサービス計画部のミッションの1つに、スマートフォンの開発があった。
そして、お客様無視の、莫大なコストを投下して生まれた端末が−− ウルトラモバイル『WILLCOM D4』だった。
(2010年3月16日分まで掲載)